厚労白書より。新型コロナ禍高齢者への影響

田中 元
2021.09.13

感染拡大前後で高齢者の活動時間は3割減
 令和3(2021)年版の厚生労働白書が公表された。今回の主テーマは、やはり新型コロナウイルス感染症だ。たとえば、同感染症の拡大が国民生活に与えた影響について、雇用や働き方、家庭生活に至るまでさまざまな観点からのデータが示されている。
 その中から、長期にわたる外出等の行動自粛の影響をもっとも受けやすい「高齢者の生活状況」にスポットを当ててみたい。

 なお、取り上げられているさまざまなデータは、直近でも2021年初旬までにとどまっている。そのため、第5波などの急速な重症者の拡大状況などは反映されていない。つまり、ここで取り上げられているデータ以上に、現状は深刻化している可能性に注意が必要だ。
 まず、高齢者の1週間あたりの身体活動時間だが、2020年1月の感染拡大前と同年4月の第1回の緊急事態宣言下では、約60分(3割)の減少が見られる。そもそも寒さの厳しい1月は活動時間が少なくなりがちだが、そこからさらに3割減というのは、いかに身体を動かさない状況が続いたかを物語っている。
要介護者のADL・認知状況の低下も深刻に
 また、介護保険サービスの状況では、「利用者・家族の希望による利用控え・キャンセル」が生じたという事業所は5割を超えている。たとえば、デイサービス等で身体を動かしたり、他者と交流するなどの機会が減少している状況も浮かぶ。運動機能や認知機能が低下しやすい要介護高齢者にとって、こうした傾向はその後の重度化を進め、家族の介護負担や介護費用の増大にもつながりやすい。

 実際、介護事業者が見た「利用者の状態悪化等のリスク」で気になるものとして、「ADL(日常生活動作)の低下」が51.1%、「認知機能の低下」が45.8%にのぼる。ちなみに要介護・要支援認定者数の推移では、2019、2020、2021年でそれぞれ5月時点を比較すると、2019年から2020年が8.7万人増なのに対し、2020年から2021年では16万人増と伸びが倍増している。新型コロナウイルス感染拡大とともに、それまで元気だった高齢者に介護が必要になるケースも目立ってきた様子が分かる。
通院頻度減少をカバーするオンラインは?
 高齢者等の健康に関しては、持病の管理も気になるところだ。昨年からの感染拡大で、高齢者を中心に「通院を控える」という状況が問題となったが、実際の受診動向調査でもその傾向が顕著に現れている。下の図の調査は「感染拡大前後の通院頻度の変化」を示したものだが、持病を有している者のうち、「通院頻度を少なくした」および「通院をやめていた」という回答が全体の約4分の1を占めている。
持病を有している者の新型コロナ感染拡大前後の通院頻度の変化
出典:厚生労働省「令和3年版 厚生労働白書」
 こうした状況下で持病管理について国が力を入れているのが、オンライン診療(電話による診療含む)だ。厚労省は2020年4月に「初診からのオンライン診療」を可能とするなどの緩和を打ち出したが、そうした施策効果もあり、2020年4月から5月の間でオンライン診療の件数が約1.8倍に増加した。

 ただし、その後は4月と比較して1.1~1.5倍で推移しており、オンライン診療が完全に国民の間に浸透したかどうかは疑わしい。特に高齢者の場合、オンラインによるビデオ通話の活用に不慣れな面や電話診療による安心感の乏しさなどがあり、なんらかの啓発策やインフラ整備なども必要になりそうだ。

 いずれにしても、感染状況が長期化する中、高齢者の健康への影響が顕在化するのはこれからかもしれない。今後も厚労省等の最新の調査にも注目することが必要だ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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