10月施行。市町村による新ケアプラン検証

田中 元
2021.10.14

介護保険利用者にも影響を及ぼす可能性
 2021年10月1日より、介護保険のケアマネジャーが作成するケアプランについて、新たな規定がスタートした。直接的には、ケアプランを作成する居宅介護支援事業所(以下、事業所)の実務にかかわることだが、巡り巡って介護保険の利用者にも影響を及ぼす可能性がある。

 まず、前提となる介護保険のしくみを整理しておこう。在宅(施設等以外)で介護保険サービスを利用する場合、サービスの利用計画が必要となる。これを居宅サービス計画(ケアプラン)といい、利用者自らが作成することも可能だが、多くは事業所に所属するケアマネジャーに依頼する。
一定の基準にもとづいてケアプランを抽出
 今回の新規定は、このケアプランを保険者(市町村)が事業所単位で抽出し、その内容を検証するというものだ。最終的には、市町村の判断に左右される部分もあるが、抽出に際しての基準が以下のように告示されている。
事業所で作成する全ケアプランのうち、そこに位置づけたサービスの総額(※)が区分支給限度基準額の7割以上であること。区分支給限度基準額というのは、要介護度ごとに定めている「この利用金額まで介護保険から支給する」という限度額のことだ。
事業所で作成する全ケアプランで位置づけたサービス総額(※)のうち、訪問介護にかかる費用が6割以上であること。
 上記の①と②を同時に満たす事業所に対して、市町村は指定するケアプランの届出を依頼する。事業所作成のどのプランを届出対象とするかについては、市町村判断となる。厚労省が定める判断の基本は、要介護度ごとに上記①、②を満たすもの1件ずつとなっている。
区分支給限度基準額をオーバーした分や、同基準額に含まれない加算などは除く。
居宅介護支援事業所を抽出する要件のイメージ
出典:
厚生労働省老健局「居宅介護支援事業所単位で抽出する ケアプラン検証等について(周知)」(令和3年9月22日 介護保険最新情報Vol.1009)
市町村の会議を経てプラン見直しの促しも
 さて、届出の依頼を受けた事業所は、(1)事業所内で指定されたケアプランの利用の妥当性を検討し、(2)そのケースで「訪問介護が必要な理由」を記載する。そのうえで市町村へ届け出ることになる。

 届出の後、市町村は地域ケア会議というものを開き、そこで医療・リハビリ職等を含めた多職種で、届出プランについて議論する。場合によっては、利用者宅で開くサービス担当者会議の場に、行政職員やリハビリ職などが派遣されて議論することも想定されている。

 議論の結果、ケアプランの見直しが必要とされると、事業所側でプランの再検討がうながされる。もっとも「見直し」となれば、利用者の同意が必要となる。よって、厚労省通知では「見直しの強制はできない」としたうえで、ケアマネジャーや市町村による利用者への十分な説明を求めている。
厚労省は利用制限が目的ではないとするが
 実は、こうした市町村によるケアプラン検証は、今回が初めてではない。2018年度には、訪問介護の生活援助(家事援助など)サービスを一定以上ケアプランに組み込んだ場合のケアプラン検証も制度化されている。

 今回は、区分支給限度基準額に対する割合や、生活援助以外のサービス(身体介護)も含めた訪問介護全体の割合という具合にスポットを当てる範囲が広がった。介護保険サービス利用の適正化という観点での踏み込みが強化されたわけだ。

 ちなみに厚労省は、今規定について「サービスの利用制限を目的とするものではない」と強調している。だが、居宅介護支援事業者側で実務の増大を避けたいゆえの「忖度」などが生じれば、サービスを絞り込む力も働きかねない。利用者の意向がどこまで尊重されるかという制度の根幹が改めて問われそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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