脳・心臓疾患の労災認定基準の改正

沖田 眞紀
2021.10.25

 厚生労働省は、令和3年9月14日付都道府県労働局長宛の通知において「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」として脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました。業務による過重負荷を原因とする脳・心臓疾患については、これまで平成13年12月に改正した認定基準を基に労災認定を行っていましたが、改正から20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境に変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえて検証を行い、認定基準の改正となりました。今後はこの改正基準に基づいて、迅速・適正な労災補償が行われることとなります。

 改正に関する4つのポイントを紹介いたします。
1.
労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価することを明確化
<改正前>
発症前1カ月に概ね100時間または発症前2カ月ないし6カ月にわたって、1カ月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合について、業務と発症との関係が強いと評価できると判断される。
<改正後>
上記に至らない場合も、これに近い時間外労働を行った場合には「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることを明確化した。
2.
労働時間以外の負荷要因を見直し
労働時間以外の負荷要因とする項目を追加。主な追加項目は下記の通り。
休日のない連続勤務
勤務間インターバルが短い勤務
事業場外における移動を伴う業務
心理的負荷を伴う業務(内容を拡充)
身体的負荷を伴う業務
3.
短時間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
<短時間の過重業務の例>
発症前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
発症前概ね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合
<異常な出来事の例>
業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合
生命の危機を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
著しい身体的負荷を伴う消火活動、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合
著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合
4.
対象疾病に「重篤な心不全」を新たに追加
<改正前>
不整脈が一義的な原因となった心不全症状等は、対象疾病の「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱われていた。
<改正後>
心不全は心停止とは異なる病態のため、新たな対象疾病として「重篤な心不全」が追加され、「重篤な心不全」には不整脈によるものも含むこととされた。
参照:
沖田 眞紀(おきた・まき)
特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。

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