在宅要介護者の紙おむつ等支給に改革の波

田中 元
2021.10.28

2015年度から始まった制度の縮小・廃止
 家で高齢者を介護している場合、紙おむつや尿取りパッド、使い捨て手袋、ドライシャンプーなどの介護用品を使っているケースは多いだろう。これらの介護用品が、市町村窓口で現品や引換券によって支給されるしくみはご存じだろうか。実は今、こうした介護用品の支給をめぐり全国の市町村が揺れている。

 もともとこうした介護用品にかかる支給については、介護保険制度上の市町村が行なう地域支援事業(任意による家族介護支援事業)の一環として行われてきた。ところが、国は2015年度より、同事業を地域支援事業から外す方針を定めた。これは、介護用品の支給について、介護保険における市町村特別給付(いわゆる上乗せ・横出しサービス)などで行なわれるべきものという考え方によるものだ。

 完全に地域支援事業から外されるとなった場合、同様の支給を継続するうえで、市町村は他の制度上の枠組みに移行することが必要となる。その一つとして国が示すのが上記の「市町村特別給付」だが、これは、訪問介護や通所介護(デイサービス)などのような介護保険による給付の一つで、市町村が独自で設定する。

 同じ介護保険制度の枠組みには違いないため、利用する側にとっては何がどう違うのかが分かりにくいかもしれない。だが、これを財源構成から比較すると違いが浮かんでくる。
市町村特別給付で、財源は保険料100%
 地域支援事業の任意事業の場合、①65歳以上が負担する介護保険料(第1号保険料)が23.0%、②国の拠出金が38.5%、③市町村と都道府県の拠出金が合計でやはり38.5%となっている。国の拠出金があるため、介護保険料や市町村の拠出を財源とする割合は限定されていることがわかる。

 これに対し、市町村特別給付の場合、財源は65歳以上の第1号保険料が100%。なお、市町村による支給のしくみの移行先候補として、介護保険特別会計事業による保健福祉事業というものもあり、これも財源は同様に第1号保険料が100%となっている。両者の違いは、前者の対象が要支援・要介護の認定者に限定されるが、後者は被保険者および家族介護者という具合に支給対象が広くなることだ。

 さらに、もう一つ想定される移行先候補が、介護保険とは切り離した市町村の一般財源による独自事業というやり方だ。この場合、財源に保険料は組み込まれないが、市町村財政から100%を拠出する必要がある。
 こうして見ると、市町村にとってはインパクトの大きな見直しといえる。たとえば、65歳以上の介護保険料100%のしくみを選択した場合、地域の高齢者の保険料に影響する(保険料アップもありえる)。一方、一般財源による事業を選択すれば、保険料に影響はないが市町村財政に大きな負担がかかりかねない。
今年4月にも新たな激変緩和措置が施行
 いずれにせよ市町村は諸々のダメージを被ることになる。そこで国は2015年度の見直し以降、激変緩和措置を取ってきた。第1弾では、2014年度時点で地域支援事業として実施している場合に2017年度までの継続を認めるもの。2018年度以降の第2弾では、地域支援事業によるしくみの廃止・縮小に向けた方策(移行先探し)の検討などの条件を付したうえで、2020年度までの継続を認めてきた。

 そして、今年4月、第3弾として引き続き移行先探しの検討の継続などを求めつつ、支給要件の明確化を図った。たとえば、所得段階に応じた不支給や支給限度額の上限設定、支給に際しては要介護(要支援)認定調査票を参照する(認定を受けていない場合は改めて調査する)といった具合である。

 要介護者のいる世帯にとっては、管轄の市町村の財政状況や、それを受けて市町村がどのようなビジョンを選択するのかについて、関心を高めていくことが必要になりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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