社会保障にかかる「負担」、国民の考えは?
~2019年「社会保障に関する意識調査」より

田中 元
2021.11.29

「負担増やむなし」と考える国民は5割超
 社会保障にかかる「負担増もやむなし」と考える国民は5割超。負担増の対象としては、現役世代よりも高齢者の負担増を求める声が多い──先ごろ厚生労働省が公表した「2019年社会保障に関する意識調査」の結果から、そうした傾向が浮かび上がった。

 同調査は、20歳以上の国民約1万1,500人(回収率は約7割で有効回答は約8,200人)を対象に、社会保障制度に対する意識や意向を調査したものだ。同様の調査は3年に2回のペースで実施され、前回の調査は2018年。両年の選択肢が若干異なるので一概に比較できないが、1年前と比べると「高齢者の負担増」を求める意識の方が強くなっている。

 具体的なデータを見てみよう。
 まず、少子高齢化にともなう「負担増」だが、①「給付水準を引き上げたうえでの負担増もやむなし」の声が11.6%。②「給付水準を維持したうえでの負担増もやむなし」が27.7%。③「給付水準をある程度引き下げつつ、ある程度の負担増もやむなし」が13.4%。①+②+③の「負担増やむなし」の合計は52.7%となる。
今後の社会保障の給付と負担の水準について
出典:厚生労働省「2019年社会保障に関する意識調査」
1年前より「高齢者の負担増」の支持増加
 では、その「負担増」を誰が引き受けるのか。今回2019年の調査では、「現役世代の負担を引き下げ」あるいは「今より重くしない」よう「高齢者の負担が重くなることはやむを得ない」という回答が、トータルで25.4%となっている。対して、「高齢者の負担を引き下げ」あるいは「現状維持」のため「現役世代の負担が重くなることはやむを得ない」という回答は、トータルで19.0%。「高齢者の負担増」に傾く声が6ポイント以上高くなった。
今後の高齢者と現役世代の負担水準について
出典:厚生労働省「2019年社会保障に関する意識調査」
 この点について、2018年の調査ではどうだったのか。こちらは少子高齢化にともなう負担増を前提に、「現役世代の負担上昇を緩和するために、高齢者の負担が今より重くなるのはやむを得ない」が28.4%。「高齢者の負担は現状維持でとどめ、現役世代が負担するべき」が27.1%、これに「高齢者の負担を減らし、現役世代の負担を大幅に増やすべき」の6.2%を加えると、トータルで33.3%。「現役世代の負担増」に傾く声が約5ポイント高かった。2018年と2019年で傾向が逆転している様子が浮かぶ。(「わからない」といった回答は除く)

 ちなみに、今調査の時期は2019年7月なので、新型コロナ禍による家計状況への影響は反映されていない。むしろ、2019年10月の消費増税を直前にひかえた中での意識が反映されていると考えられる。少子高齢者がますます進む中での10%という消費税の大台を迎え、「さらなる増税もありうる」という未来予測が実感を伴ってくる。そうなると、「もはや現役世代ばかりに頼らず、給付がもっとも多くなりがちな高齢者に負担してもらおう」という機運は高まりやすかったといえる。
「財源は社会保険料より税金で」が圧倒的
 では、社会保障の財源を何でまかなうのか。これについては、「どちらかといえば」も含めて「税金」という回答が56.4%。「社会保険料」という回答は19.4%にとどまる(ちなみに「どちらでもいい」は17.6%)。「税金」も「社会保険料」も、現役世代にとって負担には変わりない。注目したいのは、消費増税を間近に控えていた時期に、それでも「税金」を選択する人が圧倒的に多いことだ。それだけ、医療や介護にかかる社会保険制度への信頼性が揺らいでいる可能性もある。わが国の今後の社会保障のあり方を考えるうえで、ターニングポイントとなるデータかもしれない。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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