コロナ禍でストレス急増、話せる相手は減少
~東京都の調査から浮かぶ「心の不調」~

田中 元
2021.12.13

バブル崩壊や震災を超えた都民のストレス
 2020年前半からの新型コロナウイルスの感染拡大では、特に人口が密集しやすい都市部でたびたび緊急事態宣言が発令されるなど、人々の生活に大きな影響をおよぼした。顕著な地域の1つといえば、やはり東京都。その東京都の生活文化局から、11月18日に「健康に関する世論調査」の結果が公表された。

 同調査は3~4年ごとに実施されているが、今回の調査時期は、2021年6月18日から7月18日まで(郵送もしくはインターネット回答)。新型コロナウイルス陽性者数が最大を記録した第5波の前だが、それでも都民の心身の不調をうかがわせる傾向がありありと浮かんでいる。

 たとえば、「毎日の生活のなかでイライラやストレスを感じるか」という質問に対して、「しばしば感じる」が36.2%、「たまに感じる」が46.3%。合計で82.5%にのぼる。この合計で見ると1984年以来もっとも高く、最大だった前回2016年時より8.8ポイントもアップしている。過去にはバブル崩壊による景気の急落や東日本大震災という大きな自然災害もあったが、新型コロナ禍が都民に与えたストレスは、それらの環境要因を大きく上回ったことになる。
イライラやストレスの有無―過去の調査結果
出典:東京都生活文化局「健康に関する世論調査」(令和3年11月)
孤独や孤立などコロナ禍ならではの悩みも
 新型コロナ禍による具体的な「健康への影響」を尋ねた項目でも、「ストレスを感じることが増えた」が44.8%で、「運動など体を動かす機会が減った」(41.2%)を抑えてトップとなっている。気になるのは、「地域の人との交流が減った」(34.6%)や「孤独や孤立を感じることが増えた」(18.0%)という回答も一定程度見られることだ。複数回答なので、先の「ストレス増」と絡んでいる可能性も高い。

 こうしたストレスの源泉となっている悩み事や心配事について、「専門家(機関)に相談する」レベルのものを抱えたことがあるかどうかについては、「ある」が25.5%と4分の1に達している。これは、2016年の前回調査を6.4ポイント上回る。そのうえで、「ある」と答えた人のうち「適切な相談窓口を見つけることができたか」については、48.1%が「できなかった」と回答している。前回調査から15.1ポイントの上昇だ。

 新型コロナ禍では、身体の不調や経済問題はもちろんだが、先の「孤独や孤立を感じることが増えた」という具合に、社会生活にかかわる悩みが複合化しやすい。自身の生活課題が複雑化してくると、「どこに相談していいかわからない」とか「特定の機関に相談しても解決に至らない」というケースも増えることが想定される。まさに新型コロナ禍ならではの困りごとの状況と言えるのかもしれない。
マッチングに力を入れた新サイト立ち上げ
 そうしたなか、国が力を入れているのが「孤独・孤立対策」だ。2021年3月には、省庁横断による孤独・孤立対策に関する連絡調整会議がスタートし、これまでに6回の会合が催されている。さらに11月2日には、孤独・孤立に関する各種支援制度や相談先を一元化し情報発信するウェブサイト「あなたはひとりじゃない」が公開された(18歳以下向けは8月に先行公開)。

 このウェブサイトでは、チャットボット(会話形式での自動応答)を通じ、約150の国の制度や相談窓口から、当事者の悩みに応じたものを案内する機能がある。相談者とのマッチングを強化した、これまでにないスタイルといえる。新型コロナウイルスについては、さらなる変異株による第6波到来が警戒されている。先行きの不透明感が強まる時代に、悩みを抱えた人の期待に添えるものになるのかどうか注目したい。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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