2022年2月から。介護職員の賃金月9,000円UP

田中 元
2021.12.27

コロナ前の介護職賃金差は全産業比月8万強
 岸田政権では、子ども1人あたりへの10万円給付が目玉施策として注目を集めている。もう1つの目玉施策として注目されるのが、介護、福祉、保育の現場で働く人たちへの2022年2月からの月額平均9,000円の賃金引上げ策だ。

 たとえば、2025年に団塊世代が全員75歳以上となるなか、高齢者支援の要(かなめ)となる介護従事者は、増え続ける認知症の人への対応負担などに比べ、賃金の低さが恒常的な課題となっている。2019年時点における月収換算での全産業平均との賃金差は、8.5万円。2020年は新型コロナ禍による全産業の賃金低下と介護側の新たな処遇改善加算の効果もあり、やや差は縮まった。それでも依然として5.9万円の差がある。

 2009年以降、国は計6回にわたり処遇改善のための交付金や介護報酬上の加算の創設や上積みを図ってきた。にもかかわらず上記の格差。2021年10月の一般職業紹介状況によれば、全職業の有効求人倍率(パート含む)が1.06倍に対し、介護サービスは3.64倍。まさに賃金格差がそのまま現れた数字と言える。
月額9,000円増はあくまでステップだが
 そうしたなかでの「月額平均9,000円の賃金増」に、「ささやか過ぎる」と思う向きもあるかもしれない。注意したいのは、これは2022年2月から9月までの時限的な「前倒し」措置という点だ。内閣府は現在、介護・看護・保育等の従事者の収入を左右する「公的価格」(各種公的財源からの拠出について国が決定する価格)の抜本的な見直しを検討する委員会を開催している。同委員会での検討結果を受けて、2022年10月から新たなしくみのもとでさらなる処遇改善を図る──これが政府の描く工程表だ。先の「月額平均9,000円アップ」は、上記の工程において、あくまでステップの1つと位置づけたことになる。

 もちろん、ステップだからこそ、その後の継続的な施策効果のアップに向けた確かな制度設計が求められる。だが、このステップ的施策に早くも一部の職能団体等から疑問の声が上がっている。厚労省が示す施策の概要によれば、この「9,000円アップ」分は、あくまで100%公費による交付金があてられ、介護保険財政の枠外で行われる。にもかかわらず、支給対象は「介護報酬の介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを取得している事業所・施設」とされた。
所属事業所によって施策の恩恵に差が…
 100%公費にもかかわらず、前提条件で介護報酬が絡むという点にも違和感はある。だが、それ以上に問題なのは、上記の加算Ⅰ~Ⅲにはケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所や福祉用具貸与の事業所は含まれていないことだ。在宅でのケアプラン作成を担うケアマネジャーや福祉用具の相談員は「9,000円の賃金増」の対象とならないわけだ。

 確かに、「対象はあくまで介護職」というのが政府の施策意図ではある。だが一方で、概要では「事業所の判断により、他の職員の処遇改善にあてることができるよう柔軟な運用を認める」とした。結果、同じケアマネジャー資格を持つ者でも、所属事業所によって恩恵の有無に差が生じる可能性も出てくる。(なお、この「柔軟な運用」で対象職種を広げた場合、本来のターゲットである介護職の賃金アップ額が少なくなることも懸念されている)

 そもそも在宅介護においては、介護職のほか、ケアマネジャーや福祉用具担当者など多様な事業所の職種がチームを組んで支援にあたる。そこで施策の恩恵に差が生じれば、チーム内の従事者の意欲にも影響を与えかねない。

 冒頭の「10万円給付」では、所得制限やクーポン or 現金給付の点で迷走が見られる。今回の「9,000円の賃金増」施策でも、今後何らかの見直しが図られる可能性もありそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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