新たに介護保険適用、排泄予測支援機器とは

田中 元
2022.01.13

2022年4月から購入費用を保険で還付
 2021年11月に厚労省が開催した「介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会」で、介護保険の給付対象となる福祉用具の種目が新たに追加された。

 新たに給付対象として追加されたのは「排泄予測支援機器」という機器で、2022年4月からの適用が予定されている。ちなみに介護保険では、入浴や排泄にかかる機器について、他人が使ったものへの心理的抵抗感に配慮し、「貸与(レンタル)」ではなく購入費用の還付を給付対象としている。
 この排泄予測支援機器とは「利用者の膀胱内の尿のたまり具合を可視化するとともに、排尿タイミングを(介護者等に)知らせる」ものと定義されている。

 尿のたまり具合をエコー診断などで用いられる人体に影響の少ない超音波を活用して測定したり、排尿タイミングを介護者等が所有するスマホ等の端末に通知して知らせたりする製品が既に販売されている。
施設等では職員の業務負担軽減へ期待大
 施設や居住系サービスでは、すでに導入例も多い。たとえば、尿意の訴えが難しい利用者に対して、職員が本人の過去の排尿タイミングに合わせて、定時にトイレ誘導・介助を行なうとする。だが、膀胱内の尿のたまりが少ないと「空振り」に終わることもあり、職員の負担感だけが募りやすい。

 そこで、この排泄予測支援機器を利用者に装着してもらう。これにより、排尿タイミングのズレを防ぐことが可能となり、適時適切な介助が進めやすくなる。介護現場の人員不足が恒常的な課題となっている中では、職員の業務負担の軽減効果への期待は高い。

 この介護者の負担軽減が期待されるのは、在宅でも同様だ。家族介護者が高齢化する中、「本人にトイレで排泄してもらいたい」という思いがあっても、頻回の介助は心身ともにきつくなりやすい。これに対し、この排泄予測支援機器によって排尿タイミングさえ把握できれば、少なくとも効率化による負担軽減を図ることができる。また、訪問介護等のサービスを使っている場合は、限られた訪問時間でのサービスの効率化も図りやすくなる。
家族が活用できるか?マネジメントがカギ
 機器導入の問題はその費用だ。個人向けの機器例でいえば、本体と装着シートなどがセットで5万円近いケースもある。施設等で使う場合は「職員の負担軽減」策としてICT・介護ロボット導入にかかる国の補助金をあてることも可能だ。

 だが、在宅で個人が負担とするとなれば、基礎年金のみで生活する人などは、「経済的負担が大きい」と感じることもあるだろう。

 その点で、排泄予測支援機器が介護保険の給付対象となるのは朗報といえる。現行では10万円を給付範囲として(超過部分は自己負担)、かかった費用の7~9割(利用者の所得により割合は変わる)が還付される。仮に製品価格が5万円なら、3.5~4.5万円が戻ってくることになる。

 ただし同機器の場合、「介護を直接サポートする」ものではない。あくまで本人の状態の「可視化」と「予測」を支援するものであり、それを受けて介護者側が対応を要することが前提となる。同様のものとして認知症高齢者の徘徊感知機器(一人で家から出て行きそうになると感知・通知を行う機器)があるが、それ以外の直接支援タイプの機器とは支援の方向性が異なるわけだ。つまり、今回のような機器の場合、対応する側の介護者がどのように活用するか(活用は可能なのか)というマネジメントが重要となる。その点では、ケアマネジャーや福祉用具事業者に所属する専門相談員の役割がより重要となりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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