複数の事業所で働く高齢者が雇用保険に入れる制度を新設

庄司 英尚
2022.01.17

今年1月から利用可能だが、本人からの申出も要件の1つ
 厚生労働省は、65歳以上の者を対象として「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を令和4年1月1日から新設している。この新しい制度については既にパンフレットやQ&Aを公開しているのでそれらを参考にしながら制度の概要と注意点についてまとめておく。

 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)での労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上になり、かつ2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上ある場合は、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度のことをいう。

 従来の雇用保険制度は、主たる事業所での労働条件が1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用されていたわけだが、主たる事業所1つだけで判断されていたときは対象にはならなかった労働者からすると、この新設された制度を活用できるのは大きなメリットになる。

 一方で実務を行う事業所側は、通常と違って手続きが複雑になるので制度そのものをよく理解しておかないといけない。まずは概要から押さえるとともに実際に対象者が出たときに対応できるようにしておきたいところだ。なお、雇用保険加入後は通常の被保険者と同じように扱うことになっており、任意脱退はできないので加入時に本人によく説明して、事業主は手続きに必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)を行うことになる。
在籍者でマルチジョブ制度を活用できる方へ教えてあげたい
 ポイントはあくまで本人が事業主に申出た日が取得日になるということ。その申出に対して事業主は必要な証明を拒んではならず、不利益な取扱いなどをしてはならないとされている。その後、原則として労働者がハローワークに申出をすることになっているのでその点も押さえておきたい。また、通常の雇用保険加入者と同じようにマルチ高年齢被保険者も雇用保険料は発生するので、給与計算や労働保険料の申告の際に間違えないようにしたい。

 この制度は新設したばかりで知らない労働者のほうが多いと思うので、事業所側としては65歳以上で入社する方には他の事業所ですでに働いているか確認して、要件に合うようならこの制度を案内してほしい。もちろん65歳以上で在籍している雇用保険未加入者に対しても複数の事業所で勤務しているか確認して、マルチジョブホルダー制度が活用できることを伝えてもらいたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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