令和2年度不払残業代是正結果が公表されました

沖田 眞紀
2022.01.20

過去10年で最も少ない値に
 厚生労働省は、令和2年度に労働基準監督署が監督指導を行い、1企業で合計100万円以上の是正となった事案を取りまとめた結果を公表しました。今回の結果では、是正企業数、対象労働者数、支払われた割増賃金合計額とも大幅に減少、過去10年において一番少ない値となりました。監督指導の対象となった企業においては、不払残業解消のために様々な取組が行われています。厚生労働省は、引き続き不払残業の解消に向け、監督指導を徹底していくこととし、「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)」において、以下のように紹介しています。
☆令和2年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント☆
①是正企業数…
1062企業(前年度比549企業の減)
うち、1000万円以上の割増賃金を支払ったのは112企業(同49企業の減)
②対象労働者数…
65,395人(同13,322人の減)
③支払われた割増賃金合計額…
69億8,614万円(同28億5,454万円の減)
支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円
賃金不払い残業解消のための取組事例1(業種:その他の小売業)
状 況:
「出勤を記録せずに働いている者がいる。管理者である店長はこのことを黙認している」との情報を基に労基署が立入調査を実施。
ICカードを用いた勤怠システムで退社の記録を行った後も労働している者が監視カメラに記録され不払残業が確認されたため、実態調査を行うよう指導。
解消策:
労働者の正確な労働時間を把握すべく実態調査を行い、不払割増賃金を支払った。
①労働基準監督官を講師として管理者である店長を対象に研修会を実施、店長以外の従業員に対しても会議等の機会を通じて法令順守教育を行い、賃金不払い残業を発生させない企業風土の醸成を図った。
②社内コンプライアンス組織の指導員を増員して、店舗巡回を行い、抜き打ち調査を行うことにより勤怠管理との乖離がないか確認することとした。
賃金不払い残業解消のための取組事例2(業種:プラスチック製品製造業)
状 況:
「時間外労働が自発的学習とされ割増賃金が支払われない」との情報を基に労基署が立入調査を実施。
ICカードを用いた勤怠システムにより労働時間管理を行っていたが、記録されていた時間と労働時間として認定されている時間の乖離が大きい者や乖離の理由が「自発的な学習」とされている者が散見され、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。
解消策:
勤怠管理との乖離の理由が自発的な学習であったか否かについて、労働者からのヒアリングを基に実態調査を行い、自発的な学習とは認められない時間について不払となっていた割増賃金を支払った。
①代表取締役が適切な労働時間管理を行っていくとの決意を表明し、管理職に対して時間外労働の適正な取扱いについて説明を行った。
②労働組合と協議を行い、今後、同様の賃金不払残業を発生させないために労使双方で協力して取組を行うこととした。
③事業場の責任者による定期的な職場巡回を行い、退勤処理をしたにもかかわらず勤務している者がいないかチェックする体制を構築した。
今後ますます適正な残業代の支払いが求められる
 これまで未払残業代の時効は2年でしたが、法改正により令和2年4月1日以降に発生した未払残業代の時効は3年となり、いずれは5年に延長されることが見込まれています。企業には、今後ますます適正な残業代の支払いが求められます。
参照:
沖田 眞紀(おきた・まき)
特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。

▲ PAGE TOP