ケアマネジャー不足加速!? の気になるデータ

田中 元
2022.01.27

介護計画作成の要となるケアマネジャー
 ケアマネジャー(介護支援専門員)といえば、在宅で介護保険サービスを受ける際の計画作成やサービス調整を行なう専門職である。

 訪問・通い・泊りの包括型サービスである小規模多機能型居宅介護等などの利用を除き、家を拠点としてサービスを受けるには、原則としてサービス利用の計画を記したケアプランが必要となる。このケアプラン作成は利用者自身が手がけることもできるが、手続きの煩雑さから上記のケアマネジャーに依頼するケースが大半だ。

 つまり、ケアマネジャーは「家で介護サービスを受ける」際の入口であり、要(かなめ)の存在となる。そのケアマネジャーが、「やがて足りなくなる可能性がある」と聞けば、高齢者にとっては聞き捨てならないだろう。
居宅介護支援事業所数がわずか1年で800か所以上減少
 2021年末、厚生労働省が毎年行っている「介護サービス施設・事業所調査」の2020(令和2)年版の結果が公表された。同調査の中では、毎年10月1日時点で活動中の施設・事業所数が示されている。それを見ると、先のケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所は、3万9,284件。1年前と比較して834か所(割合にして2.1%)も減少している。事業所数が4万件を割るのも2014年以来だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、サービスを休止せざるを得ない事業所も多かったのでは──という見方もあるかもしれない。しかし、2020年10月1日時点では、「第5波」の感染はおおむね収束している。居宅介護支援事業所よりもコロナ禍の影響を受けやすいデイサービス(通所介護。小規模の地域密着型を含む)で53か所減、他の在宅系サービスでもっとも減少幅の大きい福祉用具レンタル(貸与)事業所でも106か所。それらと比較して、居宅介護支援事業所の減少数の大きさがわかる。
慢性的なケアマネジャー不足。その背景
 これだけ居宅介護支援事業所数の減少が突出していると、コロナ禍以外の要因があるのでは…と考えるはずだ。

 実は、構造的な要因を推し量るデータがある。2021年度の介護保険制度見直しに向けた議論の際に厚労省が提示した、「居宅介護支援1事業所あたりのケアマネジャーの人数」を示したものだ。それによれば、非常勤を含めた常勤換算で2010年度以降から「3人以上」が確保され、その後もほぼ右肩上がりが続いてきた。ピークは、2018年度の3.4人だ。

 ところが、その翌年度となる2019年度に、いきなり2.7人と急減する。3人を割るのは、実に2009年度以来。急減の要因とされるのが、2018年度から適用された「介護専門員実務研修受講試験」の受験要件の変更だ。国家資格(介護福祉士など)の取得とそれに基づく一定の実務経験などが要件として必要になったのだ。
介護支援専門員実務研修受講試験…ケアマネジャーが実務を行なうには、一定の実務研修を受ける必要がある。その研修を受講する資格を得るための試験。
在宅で介護が受けられない時代が訪れる!?
 その結果、受験者数は対前年(2017)年度比で4割以下に落ち込み、合格者数も2割以下となった。一気にケアマネジャーの成り手が減少したことになる。合格後の実務研修から入職までの期間を考えると、その影響が現れ始めたのが、2020年度の調査結果といえる。ケアマネジャー不足によって、サービスが滞り始めたと見ることができるわけだ。

 その後、受験者数も合格者数もやや持ち直したが、それでも2021年度の合格者数は要件改定前の2017年度と比較して約45%にとどまっている。

 ケアマネジャー不足は今後も続いていく可能性は高い。仮に「地域にケアマネジャーが足りなくて在宅介護が受けられない」となれば、施設(特養ホームなど)や介護付き有料老人ホームの入居に頼らざるをえない。介護にかかる高齢者の選択権が損なわれかねない危機が迫っている。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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