2021年の人口動態速報 死亡者が一転急増

田中 元
2022.03.31

人口動態の「速報値」とは何か?
 2022年2月25日、厚労省が2021(令和3)年12月分の人口動態統計の速報を公表した。この12月の速報値は、その年(2021年)の1年間の累計も示されている。新型コロナウイルス感染症の拡大で揺れた2021年だったが、その中での人口動態をもっとも早く把握できるデータと言えるだろう。

 なお、人口動態統計には「速報値」と「概数」があるが、今回の「速報値」は、日本における日本人のほか、日本における外国人、外国における日本人等の数値も含まれている。これに対し、「概数」は日本における日本人のみが対象となるので、当然ながら両者には差がある。ただし、「死亡数」の差は1%未満なので、その年を通じた死亡状況の傾向やその年次推移はおおむね把握することができる。
死亡数は前年のマイナスから急転。近年にない上昇
 その死亡状況の推移だが、あえて「速報値」の段階で取り上げたのは、対前年(2020年)比で+6万7,000人超、割合にして約4.9%の大幅な増加となったからだ。これに対し、2019年と2020年を(速報値で)比較すると、死亡数は逆に▲9,300人超で0.7%の減少。その著しい差がよく分かる。コロナ禍初年での減少は意外に思われるかもしれないが、国民による感染対策の意識が進むことで、その他の感染症(季節性インフルエンザ等)による死亡減が要因という指摘もある。

 では、もう少し前の年からの動向はどうなっているか。2016年から2019年までの増加割合の推移を見ると、2.5%→1.7%→1.4%。多死社会とは言われつつも、実は死亡数の増加割合は鈍っていて、その延長に2020年のマイナス転化があるという見方もできそうだ。その分、2021年の+4.9%という伸びの大きさがかえって目立つことになる。
死亡数急増の背景として考えられる3要因
 一転して死亡数が急増したという背景には、何があるのか。2021年の死因別統計はまだ上がっていないので仮説の域を出ないが、考えられる3つの要因にスポットを当ててみよう。

 1つめは、その年のデルタ株の拡大による死亡数の増加だが、新型コロナウイルス感染症による累積死亡数を2021年に限定すると約1万5,000人(2020年は約3500人)。これを差し引くと死亡数の増加割合はやや低くなるが、それでも+3.6%という数字になる。どうもコロナ禍での死亡数だけが要因は言えなさそうだ。

 2つめは、2020年のコロナ禍で自粛生活を余儀なくされる中、医療機関への受診控えや介護サービスの提供・利用控えなどが一気に広まったこと。それにより、もともとの持病の悪化や生活機能の低下が進む、高齢者を中心とした健康への弊害が時間を置いて浮上したという見方がある。ただし、これも詳細な死因統計が上がらないと断言はできない。

 3つめは、「老衰」による死亡リスクの高まりが挙げられる。近年は死因として老衰が急増しており、全死因の約1割を占めている(2020年で9.6%)。
国が想定する多死社会の到来も前倒しに!?
 いずれにしても、今回の5%に迫る死亡者の伸びが翌年以降も続くとすれば、国が推計している将来の死亡数も大きな修正を余儀なくされる。ちなみに推計では、死亡者数が年間160万人に達するのは2030年としているが、仮に年間約5%という増加が継続すれば2023年には到達してしまう。さらなる多死社会が急速な前倒しで訪れるとなれば、高齢者を中心とした「看取り」の場所の確保などが喫緊の課題として浮上することになりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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