外来から訪問診療に「つなぐ」新たなしくみ

田中 元
2022.04.11

外来・在宅両医師による患者への共同指導
 2022年4月から適用される診療報酬において、医療機関同士の新たな連携にかかるしくみが導入された。「外来在宅共同指導(報酬上は外来在宅共同指導料)」というものだ。現行では、患者が退院した場合の入院医療機関と外来および在宅(訪問診療等)の医療機関との連携については、「退院時共同指導」というしくみがある。だが、外来受診をしている患者が訪問診療等に移行した場合の連携のしくみはなかった。

 たとえば、高齢患者の場合、ADL(日常生活動作)や認知の状況が衰えることにより、通院が難しくなることがある。介護保険の訪問介護を利用して介護タクシー(通院等乗降介助)などで通院する方法もあるが、症状が重くなると、医師による定期的な訪問(訪問診療。同医師による緊急時の往診も含む)がカギとなってくる。施設などに入らず、「できるだけ住み慣れた家で暮らしたい」という人にとっては切実だろう。
医師同士の連携の「見える化」が安心に
 このように「外来受診」から「訪問診療」に移行するとなれば、一般的には、その患者の主治医そのものが変わることになる。そうなると診療・薬剤情報などをバトンタッチするだけではなく、患者側からすれば、医師同士の連携がしっかり「見える」ことも大きな安心となる。こうした患者側の安心と新たな主治医となる訪問診療医への信頼の確保は、家での療養環境そのものを大きく左右する。

 そうした背景から誕生したのが、今回の「外来在宅共同指導」だ。要件となるのは、外来を担当してきた医師とこれから担当する訪問診療医が共同し、患者の同意を得て一緒に自宅を訪問する(外来担当医の場合は、オンライン等での参加でもOK)。そのうえで、患者に対して在宅での療養上の必要な説明や指導を行なうというものだ。この共同指導により、外来担当医と訪問診療医の両方で指導にかかる報酬が各1回だけ算定できる。
自宅での看取り期こそ問われる「連携の質」
 この「外来」→「在宅」にかかる連携の質が特に問われるのは、患者の看取りに際してだ。訪問診療および訪問看護では、在宅での看取り対応に際して特別な報酬(在宅ターミナルケア加算など)が算定される。

 その要件として、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、患者本人および家族の意思決定を尊重することが必要となる。この場合の意思決定というのは、看取りに向けた医療・ケアの方針だけでなく、「終末期に向けて本人がどのような生き方を望むか」なども含まれている。これらについて、本人・家族と医療・介護関係者が話し合い、意思共有を図らなければならない。

 注意すべきは、本人・家族の意思は病状のステージによって「変化しうるもの」であることだ(この点について、厚労省も特に注意喚起を行なっている)。「話し合い」も繰り返し行われたうえで、その経過も共有することが求められる。となれば、担当医が変わる場合、ある時点での本人・家族の意思をバトンタッチするだけでなく、その「変化」を踏まえたうえで医師同士の共同による確認機会も必要になってくるわけだ。

 このように、患者の各ステージに応じた医師同士の連携(いわゆる水平連携)が、ますます重要な時代となってくる。4月からの新たなしくみが、患者にどのようなメリットをもたらすのか注意深く見守りたい。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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