ヤングケアラーには小学生も!? 初の実態調査

田中 元
2022.04.25

小学生の15人に1人が「家族の世話」を
 小学生のおよそ15人に1人が、「家族の世話」をしている。そうした小学生の場合、健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする・よくする」という割合が、他の小学生と比較して2倍前後高い──2022年3月に厚生労働省が公表した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」の報告書(実施主体:日本総合研究所。2021年度子ども・子育て支援推進調査研究事業の一環として実施)からは、深刻な実態が垣間見える。

 近年、大きな社会問題として浮上してきた「ヤングケアラー」の存在。「ヤングケアラー」とは、本来大人が担うべき家族の世話(介護や家事など)を担っている子どものことだ。この「ヤングケアラー」をめぐっては、厚生労働省もHP上で特設サイトを設け、相談窓口や支援団体の紹介をするほか、各種広報・啓発を進めている。2018年度からは、冒頭で示したような詳細な本人調査には至らないものの、一定の実態調査も行なってきた。
年齢が低くなるほど「家族の世話」が増加?
 これまでの調査研究における実態調査は、中高生を対象としてきたが、今回は初めて小学生と大学生にスポットを当てている。小学6年生約1万人を対象とした今調査で、「家族の世話をしている」ケースは全体の6.5%。注意すべきは、2020(令和2)年度の調査における中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%という数字との比較だ。調査の実施主体が異なる等の事情があるので一概には言えないが、それでも年齢が低くなるほど「家族の世話をしている子ども」の割合が増えているのは問題の根深さを感じさせる。
「日常のお手伝い」の範囲を超えている!?
 この小学6年生の実態を、もう少し掘り下げてみよう。「世話を必要としている家族(複数回答)」は、兄弟が71.0%で突出していて、その理由の73.9%が「幼い」ということ。これだけを見ると、「幼い兄弟の面倒をみる」というのは「日常的なお手伝い」の延長では──という見方もあるかもしれない。実際、「自分のみで世話をしている」は10.6%にとどまり、母親が64.2%、父親が47.1%にのぼる。だが、このあたりの分析には注意が必要だ。

 実は、「世話を始めた年齢」について、10~12歳(つまり、直近)が40.4%にのぼる一方、7~9歳(小学校低学年)が30.9%、6歳以下(就学前)も17.3%となっている。つまり、仮に「幼い兄弟の世話」だとしても、そこまで長期化するのは、一緒に世話をする父母などが「主」ではなく小学生である本人が「主」となっている可能性も考えられるわけだ。
本来養護者である父母も世話する対象に
 ちなみに、本来は養護者である父母が「世話を要する」対象となっているケースも、父親で13.2%、母親で19.8%にのぼる。その要因(父母の状況)としては、身体障がいが8.0%、心の病気(うつ病など)が8.7%で、それらを上回るのは日本語が苦手(10.9%)というケース。ただし、「わからない」という回答が33.3%もあり、小学6年生の認識状況を考慮すれば、たとえば(小学生では病気と認識しにくい)心の病気などの割合が、実際にはもっと高いという仮説も浮かんでくる。

 いずれにしても問題なのは、冒頭で述べたように、「家族の世話をしている小学生」の健康・生活の状況に大きな影響がおよんでいる点だ。学校生活でも「授業中に寝てしまう」「宿題ができていない」「忘れ物が多い」なども、やはり他の小学生の2倍前後にのぼるという。ヤングケアラーが「家族の状況」と深くかかわるのであれば、発見や支援を学校だけに任せるのは限界がある。やはり地域全体でのサポート体制の構築が急務となるだろう。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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