経済界から財務省から…介護保険の大改革案

田中 元
2022.05.26

介護保険制度の次の見直しは2024年度
 介護保険制度がスタートして、22年目を迎えた。その間にわが国の高齢化率(65歳以上人口の割合)は10ポイント以上アップし、それにともなう介護費用(介護保険財政からの拠出+利用者の自己負担)も約4倍へと上昇。65歳以上が支払う介護保険料(1号保険料)は、月額平均6000円台に突入した。

 その介護保険は、3年ごとにしくみが見直され、次の見直し予定は2024年度となる。その工程に向けて2023年に改正法案が国会で審議されるが、法案の骨格づくりの議論(厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会)は2022年中にスタートする。このタイミングを見計らうように、さまざまな分野から制度の改革に向けた提言が発せられている。

 中でも、利用者にとって厳しい改革案を打ち出したのが、財務省と経済団体だ。前者は財政を司る立場として、膨張し続ける社会保障費の抑制を図る観点から。後者は、現役世代の保険料負担(40~64歳の2号保険料。雇用者については事業主との折半となる)が重くのしかかることへの危機感から。奇しくも両者の提案には重なる部分も多い。
利用者負担のアップや給付抑制策など…
 第1に、「利用者負担が2割となる対象者を拡大すること」。第2に「在宅でのケアプラン作成の費用に利用者負担を導入すること」。第3に「軽度要介護者(要介護1・2を想定)の訪問・通所介護(ホームヘルプサービスとデイサービス)を保険給付から外し、市町村が運営する事業へと移行させること」。いずれも給付を抑えることが主眼となっている。

 第1の2割負担対象者の拡大だが、まずは現行のしくみを整理しよう。介護保険による給付サービスを利用する場合、利用者の所得水準によってサービス費用の1~3割が自己負担となる。たとえば、本人の年間所得が160万円以上であれば、2割もしくは3割負担となる(例外あり)。この2・3割負担者は、財務省側の資料によれば利用者全体の約9%にとどまっている。この対象範囲を拡大するために所得要件を引き下げたり、原則2割以上とする制度の見直しを図るというものだ。

 2つめのケアプラン作成への利用者負担導入だが、現行では自己負担は発生していない(無料)。これについて、自己負担が発生している他サービスとの整合性をとるというものだ。自己負担導入によって利用者のケアプランへの関心を高め、ケアマネジャーの質をチェックしやすくなることも目的とされている。

 3つめの軽度者の訪問・通所介護にかかる給付外しだが、すでに(要介護より軽い)要支援認定を受けた人の予防訪問・通所介護が同様の扱いとなっている。移行先となる市町村による事業(地域支援事業という)には、給付と同じく介護保険の財源が使われてはいる。だが、事業費には原則として上限額が設けられ、サービス提供側の人員基準なども緩和されている。いずれにしても、介護保険からの拠出をカットするという効果が見込まれている。
経済団体からは、さらなる強硬策も
 以上の3つについては、過去にも財務省などから提言されてきてはいるが、そのつど厚労省側の審議会ではねつけられてきた経緯がある。だが、今回は「改革は当然」など財務省側の主張のトーンは上がっており、経済団体との足並みも今まで以上に揃っている。しかも経済団体の中からは、経済成長率に合わせて給付の伸びを自動的に制限するしくみ(サーキット・ブレーカー)といった、より強硬な給付抑制策の提案まで上がっている。

 2025年には、いわゆる団塊世代が全員75歳以上となる。その前に介護保険にどこまでメスが入れられるのか。この1、2年のさまざまな議論に大きな注目が集まりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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