WHOが警戒訴えるサル痘。基本知識を整理

田中 元
2022.06.13

5月30日時点で国内の感染は未確認だが
 新型コロナウイルス感染症については、日本国内での1日あたりの新規陽性者数が依然として2万人を超えており(6月2日時点)、終息の兆しが見えたとは言いにくい。特に福祉施設(高齢者・児童・障害者)でのクラスターは5月中旬に1週間で300件以上と記録しており、感染対策を緩めるタイミングでないことは明らかだ。

 そうした中、世界保健機構(WHO)が、別の感染症への警戒を訴えている。すでに報道等で周知のとおり、警戒すべき対象となっているのが「サル痘」という動物由来のウイルス感染症だ。6月3日時点で国内の感染事例は確認されていないが、海外では従来の流行地域(中央アフリカから西アフリカ)以外での複数の国で、アフリカ大陸への渡航歴がない感染者が250件ほど発生している。

 折しも6月10日から、コロナ禍で制限されていた観光目的の新規入国が認められることになった(旅行代理店等に限る)。過去のケースではサル痘のヒトからヒトへの感染は稀であり、WHOも現時点で渡航制限措置などは求めていない。ただし、飛沫や接触による感染が起こりうるとされ、厚生労働省の結核感染症課では全国自治体に発した通知内で、「市中感染の発生が示唆される」と注意を呼び掛けている。
多くは自然軽快するが重症化するケースも
 そこで、いざ国内での感染症例が発生した場合を見すえ、サル痘にかかる基礎知識を確認しておこう。先に「ヒトからヒトへの感染は稀」と述べたが、多くの場合、アフリカに生息するリスなどのげっ歯類をはじめ、サルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触によりヒトに感染する。潜伏期間は6~13日程度で、発症すると発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が最大5日程度持続し、発熱1~3日後に発疹が出て水疱や膿疱となる。

 これら水疱等は2~4週間持続し、多くの場合は自然軽快する。だが、小児や患者の健康状態によっては重症化し、気管支肺炎や敗血症、脳炎などの合併症を引き起こすこともある。致死率は1~11%程度となっている。先進国での死亡例はないが、新型コロナウイルスの60歳以上の致死率が1.99%(5月16日の厚生労働省の資料より)なので、決して油断できない感染症と言えるだろう。
国は予防効果のある天然痘ワクチンを備蓄
 現時点で、治療は対症療法に限られ、すべての皮疹が消失するまで感染予防策を取ることが推奨されている。ちなみに、欧州では承認された治療薬があるが、わが国では薬事承認された利用可能な治療薬はない。ただし、予防策として天然痘ワクチンによって約85%の発症予防効果があるとされている。

 この天然痘ワクチンだが、WHOが1980年に天然痘根絶宣言を行なう4年前(1976年)から、わが国では定期接種は行われていない。ただし、5月27日の厚労相会見では、生物テロ対策の観点から「国内において生産・備蓄を行なっている」ことが明らかにされた(具体的な確保量等については「危機管理上の理由から公表を差し控えている」という)。

 現在国は、国内での臨床症状からサル痘が疑われるケースが認められた場合の情報提供を求めている。先に述べたように、欧米ではアフリカへの渡航歴がない人の感染が確認されており、感染ルートの把握が困難な状況だ。いずれ国内での感染例が生じることも想定しつつ、冷静な対応が求められる。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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