高齢者の日常生活への意識から浮かぶもの

田中 元
2022.07.11

シニア世代の生活満足度はおおむね上昇
 内閣府が2021年12月に実施した、「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」の結果が公表された。「高齢者」とはなっているが、対象者は60歳以上なので「シニア層」とした方がいいかもしれない。その「シニア層」の日常生活への意識はどうなっているのか。ここでは、今から8年前の2014年に実施された調査との比較などを通して、「今の時代」の特徴を探っていきたい。

 まずは「日常生活全般の満足度」だが、2014年調査と今調査を比較すると、「満足している」が12.0%→14.1%、「まあ満足している」が56.2%→61.7%。今から7~8年前と比較して生活の満足度はおおむね向上している。では、その「生活の満足度」はどの要素に起因しているのだろうか。「人づきあいの多さ」か、「家庭内での役割や社会参加の状況」か、あるいは「将来への不安が少ないこと」か。
シニア層の「生活満足度」を支えるのは何か
 「人づきあいの多さ」だが、「ふだん親しくしている友人・仲間の有無」を見てみよう。2014年調査と今調査の比較によれば、「たくさん持っていると感じる」が9.0%→4.9%、「普通に持っていると感じる」が45.8%→38.3%。今調査が行われたのは2021年12月であり、新型コロナウイルス感染者数が落ち着いてきた時期ではあるが、それまでの感染拡大の影響も想定される中、人づきあいは大きく減っている。

 コロナ禍の影響は、「社会参加の状況」にもうかがえる。「過去1年間に参加した社会活動」では、「健康・スポーツ」関連が33.7%→26.5%、「趣味」関連が21.4%→14.5%、「地域行事」関連が19.0%→12.8%と、やはり減少が目立つ。社会活動の多様化という要因も考えられるが、「活動または参加したものはない」も39.0%→41.7%と増加傾向にある。

 外部に活動・参加を求める意向が減退しているとして、では「家族や親族内での役割」はどうか。これについても、「特に役割はない」が13.6%→25.8%へと急増している。どのデータを見ても、「日常生活の満足度」は高まっているのに、それを支えている要因は何かが見えてこない。

 となれば、自身の健康や家計が良好という状況が考えられるわけだが…。このあたりの「満足度」にかかる詳細な項目は、今調査では取り上げられていない。「将来の日常生活全般についての不安」という項目があるものの、これを見ても8年前と比較して大きな変化はない。むしろ、健康や相続、子どもや孫の将来などへの不安は(微増とはいえ)増加傾向にある。
生活満足度を支えているのはネット利用?
 では、生活満足度上昇の要因は何なのか。ヒントとなるのが、「日常生活情報の満足度」だ。2014年と2021年の比較では「満足している」「まあ満足している」の合計が73.0%→78.5%と5ポイント以上上昇している。ちなみに、2022年版高齢社会白書では、2010年と2020年の比較で60~79歳の「インターネット利用率」が急速に伸びているデータがある。これらのデータから、ネット利用による情報満足度の高さが生活満足度に関係しているのではないか──そうした仮説も浮かぶことになる。

 実際、2014年と2021年の比較では、ネットの普及で「必要な情報が乏しい」という不満は10ポイント以上減少した。一方で、「情報量が多すぎる」、「情報の内容が分かりにくい」という不満は逆に10ポイント近く上昇している。シニア世代の生活満足度と情報のあり方の関係が深まる中、提供されている情報の質という点が大きな課題となる状況が浮かび上がる。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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