適合性の原則について考える-募集人としての「責任」とは-

加藤 悠
2025.04.28

 2025年4月1日から「監督指針(正式名称は「保険会社向けの総合的な監督指針」)」が改正されたことをご存知でしょうか。これは、同日に施行された改正金融商品取引法(以下、「金商法」)に対応したものです。
「適合性の原則」を踏まえた説明態勢の整備
 今般の改正では、「適合性の原則」を踏まえた説明態勢の整備が求められています。
 「適合性の原則」とは、金商法の第40条に定められたもので、「顧客の知識や経験、財産状況、契約の目的などを考慮し、顧客に適した商品を勧誘しなければならない」というものです。保険業法でも「特定保険契約」については金商法が準用されているため、従来から一定の対応が求められてきました。

 今般の見直しは、「特定保険契約」をめぐるトラブルの多さや、2024年11月施行の改正金融サービス提供法により、いわゆる「最善利益義務」が課されたことを受けた動きと言えます。

 改正後の監督指針により、今後は以下のような対応が重要になります。
顧客の最善の利益を勘案した上で、知識や経験、ニーズにあった商品を適切に選び、その説明も適切に行う。
保険会社が事後でその適切性を検証できるように、募集人は募集の内容を記録・保存する。
「適合性の原則」と「責任」
 ここで改めて考えたいことは、「顧客の人生に責任を負ったうえで商品を提案しているか」という点です。たとえば、「学資の積立目的で変額保険を提案する」ケースについて、筆者は次のように考えます。

 学資の準備は、将来の進学費用を確実に用意することを目的とした資金計画です。子どもの大学進学に合わせて、予定通りに積み立てられているという「見通しの確かさ」が何よりも求められます。一方、変額保険は、運用実績に応じて将来の受取額が変動し、元本割れのリスクもあります。

 こうした性質を踏まえると、そもそも変額保険を学資目的で提案すること自体が、専門家として適切だったのかという根本的な「判断責任」が問われるべき場面もあるのではないでしょうか。

 確かに、リスクに関する説明や顧客の理解といった、今般の改正を踏まえた態勢整備も重要な要素ではあります。しかし、それ以前に「価格変動リスクのある商品を、確実性が求められる目的にあえて勧める」という行為そのものが、プロフェッショナルとしての「職業的責任」や「信認義務」を果たしているのか、という視点を持たねばなりません。

 近年はNISAなどの普及もあり、「長期・積立・分散投資」への理解は進みつつありますが、学資目的の資金計画は投資とは異なり、「少なくともこの金額は確保される」という安全性が求められます。そのため、変額保険を提案する際には、単なる商品知識やリスク説明の有無を超えて、「そもそもこの提案は、顧客の利益にかなっていたのか?」「最善利益義務を果たしていたか」という根源的な問いに、自ら答えられるかが重要といえます。

 我々が自らの判断と提案内容に誇りを持てるかどうか。それは単なる販売成績ではなく、顧客とその家族の将来を預かる専門家としての職業的良心と責任の問題です。
参考:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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