物価高の影響、病院・介護施設にもジワリ

田中 元
2022.07.25

6月消費者物価指数は前年同月比2.4%UP
 今年の2、3月から顕著となってきた消費者物価の上昇が、依然として衰えない。総務省統計によれば、今年6月の消費者物価指数は前年同月比で2.4%の上昇。前月(5月)比でも0.1%の上昇を見せている。

 そうした中、医療・介護分野の経営状況にも影を落とし始めた。今年6月、独立行政法人・福祉医療機構が医療法人や特別養護老人ホーム(以下、特養ホーム)を経営する社会福祉法人を対象に、経営動向の調査を行った。それによれば、今年3月調査との比較で収益への圧迫が増している状況が浮かぶ。
経営上の課題は「経費の増加」が圧倒的
 まず一般病院について見ると、医業収支のDI(黒字-赤字)が、3月は+11だったのが6月には-1へとマイナスに転化。その幅は-13ポイントにも達する。また、「経営上の課題」への回答としてもっとも目立つのが、「人件費以外の経費の増加」で、3月調査時と比べて+15.3ポイントに達した。他の課題では「患者単価の低下」が+2.6ポイントだが、それ以外はすべてマイナスとなっている。

 一方、特養ホームを経営する社会福祉法人はどうなっているか。こちらのサービス活動収支DI(黒字-赤字)については小規模施設以外プラスだが、かねてから全般的に厳しい経営状況の中で、サービス活動収益DI(増加-減少)はマイナスが続いている。こちらでも「経営上の課題」として目立つのが、「人件費以外の経費の増加」で3月調査時との比較で+15.1ポイントとなっている。やはり、こちらも他の課題を引き離して断トツだ。
影響の大きさは水道光熱費やガソリン代
 今回の調査では、「原油価格や物価高騰による影響」にもスポットを当てている。それによれば、2022年度上半期の影響として、病院の「医業費用への影響あり」が86.6%、特養ホームの「サービス活動費用への影響あり」が88.5%にのぼっている。数字的に「5%以上の増加見込み」で見ると、病院で53.9%、特養ホームで48.9%となっている。

 具体的に「影響が大きい」と見込まれる費用としては、病院の場合で「水道光熱費」が58.4%。特養ホームの場合で「水道光熱費」95.6%のほか、送迎等に使う「車両費(ガソリン代等)」と「給食費」がともに52.5%にのぼる。後者の特養ホームの場合、デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所)を併設していることも多いが、そこで必要となる送迎費用は介護報酬に含まれている。当然ながら、遠距離送迎などが多い施設などは経営的に厳しい状況に置かれることになる。
国は臨時交付金の活用での対策を講じたが
 国は、現在の原油価格や物価の高騰に対して、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を自治体判断で活用できる旨を通知している。ただし、あくまで自治体判断による対策なので、その周知が行き届くかどうかが課題となる。内閣府としては政府広報を通じた情報発信を進めているが、今後の状況次第では予備費の活用も視野に入りそうだ(「新型コロナウイルス感染症対策予備費」を「新型コロナウイルス感染症および原油価格・物価高騰対策予備費」に改組)。

 いずれにしても、国民にとってはセーフティネットにかかわる資源にも影響がおよび始めたことになる。現状の物価高、その影響の広がりにはさらなる注視が必要だ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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