年金受給の在り方の見直しと受給開始時期の選択肢拡大

沖田 眞紀
2022.09.08

 より多くの人がより長く働き、また多様な働き方が選択できるようになるなど、社会・経済は大きく変化しています。こうした変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ることを目的として、令和2年に年金制度が改正、令和4年4月から改定されました。今回は特に、働きながら年金を受給する場合の改定について取り上げます。
在職老齢年金制度の見直し
 60歳以上の老齢厚生年金受給者が就労している場合、賃金と年金額の合計が一定以上になると、全部または一部の年金が支給停止となります。これを在職老齢年金制度といい、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象にした『低在老』と65歳以上に支給される老齢厚生年金を対象とした『高在老』があります。令和4年4月から、低在老、高在老とも停止される基準が47万円となりました。
在職定時改定の導入
 65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、これまでは、退職等により厚生年金の資格喪失をするまで、老齢厚生年金の額は改定されませんでした。令和4年4月より在職定時改定が導入、年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料が年金額に反映されるようになりました。就労を継続したことの効果を、早期に年金額に反映することで、働く在職受給権者の経済基盤の充実が図られることとなります。

 この制度は、65歳から70歳になるまでの老齢厚生年金を対象としたもので、65歳までの特別支給の老齢厚生年金、70歳からの老齢厚生年金には適用されません。
受給開始時期の選択肢の拡大
 公的年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、現行制度では、希望すれば60歳から64歳までの間の繰上げ受給、66歳から70歳まで繰下げ受給が選択できることとなっていました。

 今回の改正で、その上限が75歳に引き上げられました。繰下げ増額率は1月あたりプラス0.7%となり、最大でプラス84%増額されることとなります。

 60歳~64歳までの繰上げ受給は変更なく、繰上げ減額率は1月あたりマイナス0.5%、最大30%となります。繰上げ、繰下げした年金はそれぞれ生涯を通じて受け取ることができます。

 この改正は、令和4年4月から適用され、令和4年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降に生まれた方)からが対象となります。なお、年金支給開始年齢の引き上げは行われず、現在の65歳のままとなります。
参考:
沖田 眞紀(おきた・まき)
特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。

▲ PAGE TOP