最新調査から見る、介護従事者の確保状況

田中 元
2022.09.12

介護人材の不足状況は3年ぶりに上昇
 人口のさらなる高齢化と労働力人口の減少により、高齢者の介護を担う人材不足は、わが国の中長期的な課題となっている。

 そうした中、直近の状況を示したデータが公表された。公益財団法人・介護労働安定センターが毎年度実施している「介護労働実態調査」だ。最新の2021年度調査(調査実施期間は2021年10月)から、現場における介護人材の不足状況にスポットを当ててみよう。

 まず事業所・施設における「人手不足感(大いに不足+不足+やや不足の合計)」は、63.0%。全体としては、2018年度の67.2%をピークに減少傾向(2020年度は60.8%)にあったが、今調査では3年ぶりに上昇した。

 要因として挙げられるのは、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大により従事者が感染等で離脱するケースだろう。だが、介護従事者のうち施設等で働く「介護職員」の不足感に限っては、なおも下落トレンドにある。そもそも、2021年10月期の感染状況は比較的落ち着いている点を考えれば、今年に入っての感染拡大下はともかく、調査時点での影響は大きくないと思われる。
不足感高止まりの訪問介護員。その要因は
 では、全体の不足感を押し上げている要因は何か。もともと不足感が極めて高いのは「訪問介護員(ホームヘルパー)」で、不足感は80.6%にのぼる。8割以上という数字は、ここ数年高止まりしていて、しかも「大いに不足」が25.1%と全体の4分の1に達している。

 直接的とは言えないものの、要因の1つと考えられるのが、訪問介護員の年齢層の高さだ。職種別の「65歳以上の労働者の割合」は25.4%で、平均年齢は54.4歳といずれも職種別ではトップである。割合を比較すると、介護職員の10.6%のほぼ2.5倍に達する。

 訪問介護員の場合は、施設等の勤務と異なり「利用者宅へおもむいてのサービス」に加え、「終始1人で対応する」というケースがほとんどだ。昨年、今年のような夏場の炎天下での移動、1人での利用者の介助となれば、高齢化する従事者にとっては負担が大きい。稼働時間や稼働率は限られがちとなり、その状況が続けば必然的に人員の不足感は高まる可能性が高い。
看護職員、リハビリ職の不足感上昇の背景
 さらに全体の不足感を高めているのが、介護職以外の従事者の状況である。具体的には、「看護職員」と「理学療法士などのリハビリ専門職」。両者は、2020年度調査と比べて1.3~1.4ポイント不足感が高まっている。「看護職員」で44.7%なので、「介護職」の64.4%よりはかなり低い数字だが、それでも「不足感を押し上げている」点は無視できない。

 その要因として考えられるのは、利用者の高齢化やコロナ禍での健康状態・身体機能の悪化等により、医療ニーズやADL(日常生活動作)の回復ニーズが高まっている点だろう。そうした中で、介護報酬上の従事者の処遇改善を目的としたしくみの恩恵が、介護職員以外に及びにくいという事情もある。

 2019年10月に設けられた加算、および2022年10月からの上乗せ加算では、一応「介護職以外」にも配分できるしくみだが、中心となるのは依然として介護職。確かに看護職員やリハビリ職員はもともとの給与額は高いが、先に述べたような職責が高まる中では、それに報いるだけのもう一歩進めた報酬上のしくみも求められる。2024年度の介護保険見直しに向けた議論が続いているが、こうした多様な職種への目配りも欠かせないだろう。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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