2040年には医療・福祉人材が100万人近くも不足!?

田中 元
2022.11.14

白書テーマは「社会保障を支える人材確保」
 2022年版の厚生労働白書が公表された。同白書は毎回主要テーマをかかげているが、今回は「社会保障を支える人材の確保」。14~64歳のいわゆる現役世代の人口が減少の一途をたどる中、医療や介護、福祉など社会保障を現場で支える人材は、将来的にニーズを充足させることが難しくなっている。そうした課題の詳細な分析とともに、解決に向けた施策の方向性やヒントをかかげている。

 まず、これからの状況の分析だが、社会保障を支える人材について考える場合、2つの面を理解しなければならない。
高まるニーズ、不足する支え手…その結果
 1つは、人口の高齢化にともない、医療や介護等のニーズが高まっていくこと。すでに近年の医療・介護等ニーズの拡大により、社会保障分野の就業者数は2021年度時点で20年前より1.8倍以上の伸びを記録。今や全就業人口の約8人に1人が、医療・介護・福祉関係の分野で働いているというデータもある。

 もう1つは、先に述べた現役世代の人口減が、働き手をめぐる状況を大きく変えていくことだ。現状において現役世代は減少しても労働力人口そのものは大きく減ってはいない。これは、女性や高年齢者の就業が増えていることが要因だが、ここにはさまざまな課題がある。女性の場合、出産のみならずわが国では育児というイベントが労働参入を大きく左右している。高齢者については体力面や腰痛等のリスクが大きく、労働環境のあり方が大きく問われる。いずれも、今後の労働力確保を不透明にしている要因と言えるだろう。

 この2つの面を考慮した時、たとえばいわゆる団塊ジュニアの多くが65歳前後となる2040年において、社会保障を担う人材はどうなっていくか。今回の白書では厚労省のシミュレーションが掲載されているが、それによれば「経済成長と労働参加が進むケース」を想定した場合でも、ニーズに対して約96万人が不足するという試算になっている。
支え手不足を解決するための方策は?
 100万人に近い人々が、必要な医療や介護、福祉を受けられないとなれば、社会の存続そのものを危うくしかねない。こうした状況を解決するうえで何が必要なのか。今回の白書で示された事例等をいくつかあげてみよう。

 たとえば、小児科医の加重労働が問題となる中、病院内で小児科医師を増やすべく、当直免除など女性小児科医師が勤務しやすい環境整備を図ったケース。これは、先述した女性の就業促進を図るための取組みといえる。

 また、介護分野では、厚労省の「医療・福祉サービス改革プラン」から「介護助手等としてシニア層を活かす方策」が紹介されている。介護助手とは、介護現場における間接業務(利用者と直に接しない業務。たとえば、施設内の清掃や備品管理、ベッドメイキング等)を担うことが想定される職務で、現在厚労省内の審議会等では「人員配置基準への反映」なども議論されている。これまで介護職員が担ってきた業務の一部をシフトさせることで、現場負担を軽減させることが狙いだ。

 これ以外でも、ロボットを活用した診療やAIによる介護のケアプラン作成支援などのテクノロジー活用、外国人人材が活躍しやすい環境をいかに整えるかなど、さまざまなビジョンが示されている。一読したうえで、20年後のわが国の医療や介護の現場のあり方を「自分ごと」として考えてみてはどうだろう。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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