贈与税の非課税特例見直しに向けた議論の行方は?

堀 雅哉
2022.11.28

 現在、令和5年度改正に向け政府税制調査会(以降、政府税調)での議論が進められている。昨年度および今年度の税制改正大綱に明記のとおり、相続税制・贈与税制の今後のあり方について多く議論されており、その中にあって、現在、特例として運用されている贈与税の非課税特例の見直しについても議論されている模様だ。
適用期限がある贈与税の非課税特例制度
 現在有効中の贈与税非課税制度のうち、適用期限が定められている時限的制度は以下のとおりである。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(2009年度創設、適用期限2023年12月)
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税(2013年度創設、適用期限2023年3月)
直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税(2015年度創設、適用期限2023年3月)
(上記以外にも「事業承継税制における納税猶予制度の特例」等があるが、円滑な事業承継のための支援を目的としたもので、上記の特例と趣旨が異なる制度のため、本稿では対象外としている。)
 これらの非課税制度は、経済活性化対策の一環として世代間の資産移転を促進することを目的とした特例として創設されたが、その後、当初の適用期限が終了するタイミングに合わせて適用要件の見直し(適用の厳格化)や非課税金額の見直しを伴いながら延長が繰り返され、制度として現在まで存続しており、政府税調では適用期限延長を行わないこと(つまり制度廃止)も含めた議論が行われているようである。
来年(2023年)3月に適用期限を迎える非課税特例制度
 前述の3つの非課税特例制度のうち、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」は来年の2023年3月に適用期限が終了のため、令和5年度税制改正大綱に適用期限延長が盛り込まれない限り制度廃止となる。

 これらの制度は、教育資金や結婚・子育て資金に充てるため金融機関等との資金管理契約に基づき直系尊属(祖父母や父母など)から信託受益権を付与された場合などに、一定の金額までが非課税とできるもので、非課税限度額や適用要件などは法令で定められているが、適用期限延長のたび、要件(所得制限や相続税課税発生の対象の拡大など)の追加など運用の厳正化が図られ、当初の積極的な世代間資産移転の狙いから後退していったようにも見える。また、教育資金、結婚・子育て資金ともにそれぞれの適用件数・金額ともに制度導入時から大きく減少しており、経済活性化効果の面からも役割を終えたと評価されているのかもしれない。
種類 教育資金贈与信託受託 結婚・子育て資金贈与信託
制度創設時
(2013年度)
直近
(2021年度)
制度創設時
(2015年度)
直近
(2021年度)
新規契約数 67,581件 8,962件 4,712件 153件
新規信託財産設定額 4,478億円 831億円 104億円 7億円
出典:第2回 相続税・贈与税に関する専門家会合(2022年10月21日)資料
 なお、残る「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」については、その適用期間が来年(2023年)いっぱいであるため、制度延長・廃止の決定までにあと一年の時間的な猶予はあるが、今回の税制改正大綱においてその方向性が指し示される可能性があるかもしれない。
令和5年度税制改正における相続税・贈与税制度の見直しの行方は?
 以上、適用期限がある贈与税の非課税特例制度について見てきたが、年末に発表となる「令和5年度税制改正大綱」においては冒頭でも触れたとおり「相続税制・贈与税制の見直し」についての具体的な内容が提示されることが予想されている。本稿で取り上げた贈与税については、資産課税制度見直しの一環として相続税制とのかかわりの中で理解する必要があり、どの観点からも令和5年度税制改正大綱の内容については大いに注目をしたいところである。
(注)
来年度の税制改正の内容は「令和5年度税制改正大綱」によって明らかになり、その後、税制改正法案の成立により正式に決定となるため、本稿に記載の内容についても変動することが考えられる。
参考:
(セールス手帖社 堀 雅哉)

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