月60時間超える残業、中小企業も割増賃金率引上げに

庄司 英尚
2023.01.16

2023年4月より中小企業も引上げに
 2023年4月1日からは、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、中小企業に対しても引き上げられることが決まっている。今回は、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率に関する改正の概要についてお届けする。
<割増賃金率の変更箇所>
1か月の
時間外労働
改正前 改正後
2010年4月1日~2023年3月31日 2023年4月1日~
60時間以下 60時間超 60時間以下 60時間超
大企業 25% 50% 25% 50%
中小企業 25% 25% 25% 50%
中小企業も対象となり対策を検討する必要あり
 2010年4月1日に施行された改正労働基準法では、月60時間を超えた時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払うよう、定められた。ただし中小企業に対しては、この引き上げは猶予されていた。

 その後、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」で、その猶予措置の終了が決定したため、いよいよ中小企業も対象となった。企業側は60時間を超えて時間外労働をしている従業員がいないかチェックをし、状況に応じてその対策を検討する必要がある。
60時間超の従業員がいる場合、代替休暇制度の導入も検討すべき
 法定割増賃金率引上げに伴い人件費がアップすることが予想されるのでその影響を最小限に留めるためには、やっておくべきことがある。

 まず優先的に取り組まなければならないのは、時間外労働そのものの削減である。いずれにしても無駄な作業を減らし、ITや最新の機械の導入による効率化に積極的に取り組んでいきたい。

 また1か月60時間を超える法定時間外労働を行った従業員の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与するという方法もある。ただし代替休暇を付与することになっても、あくまで通常の割増賃金(25%)との差額の支払いを免除するだけであり、25%の割増賃金率分の残業代については支払わないといけないのでその点は誤解しないよう注意したい。

 代替休暇の時間数の算出方法、休暇の単位などを決めるためには、労使間で話し合いを行い、労使協定を締結することが条件となる。労使協定は、事業場において代替休暇の制度を設けることを可能にするものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではない。したがって個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、従業員の意思により決定されることになる。

 いずれにしても中小企業の経営陣及び人事総務担当者は、自社の現状をよく把握し、法律改正の趣旨をよく理解したうえで様々な検討をしていくことになるので余裕をもって早め早めに行動していきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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