新たな認知症治療薬、米国でいち早く承認

田中 元
2023.01.26

日米の共同開発による新薬レカネマブ
 今度こそ認知症治療の光明となりえるのか。2023年明けに注目の的となったのが、エーザイ株式会社と米国のバイオ医薬品大手バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ(一般名)」だ。

 数年前から臨床試験が行われてきたが、2023年1月に米国FDA(食品医薬品局)による承認を取得。この承認はあくまで重篤者への迅速な治療提供を目的とした迅速承認で、今後はフル承認に向けて最終治験のデータ等を用いた申請を行なう予定だ。また、1月11日には欧州で販売承認申請を提出、1月16日には国内においても独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に新薬承認申請を提出している。

 この新薬「レカネマブ」の特徴だが、アルツハイマー病の発症原因とされる脳内のアミロイドβプラークを減少させるというもの。現在国内で承認されているアリセプトなどの認知症薬は、脳の神経細胞に情報を伝達させる機能を整えるもので、アルツハイマー病の発症原因そのものには作用しない。そのため、記憶障害などの症状の進行を緩やかにはできるが、劇的な改善を図るまでには至らない。その点で、アミロイドβプラークの減少を図るレマネカブは、アルツハイマー型の認知症治療を大きく変える新薬といえる。
先行申請のアデュカヌバムは継続審議だが
 同様の作用が期待される新薬といえば、やはりエーザイとバイオジェンが共同開発した「アデュカヌバム(一般名)」がある。2021年に話題となったので、記憶している人も多いだろう。だが、こちらは国内承認に必要な厚労省の薬事・食品衛生審議会(医薬品第一部会)で、「本時点で得られたデータから、本剤の有効性を明確に判断することは困難」として継続審議となった。また、本剤の投与によって「脳の浮腫や出血などが見られる」といった副作用についても指摘されている。

 新薬の承認を期待していた関係者にとっては肩透かしとなった状況だが、それだけに今回の「レカネマブ」への期待は高い。2022年9月には、エーザイが軽度認知障害(MCI)と軽度アルツハイマー病の患者を対象とした大規模検証試験において「評価項目の高度に有意な結果(ブラセボ投与群〈※1〉と比較して27%の症状悪化抑制)」が達成されたと発表。先の迅速承認は、それ以前の臨床試験にもとづくものだが、上記の大規模検証試験の結果を受けて米国でのフル承認に向けた申請が行われたという経緯になっている。
日本でも申請、承認の期待高まる
 気になる日本での承認だが、先の大規模検証試験での「有意な結果」に対しては、すぐさま厚労大臣の定例記者会見でも取り上げられ、承認申請がなされれば「適切に審査を行なう」旨が示されている。また、当事者団体である認知症の人と家族の会も、米国での迅速承認を受けて同日に代表理事名で声明を出し、「希望ある未来の幕開けとなる朗報」という最大限の賛辞を送っている。

 ただし、日本での承認過程も含めた課題もある。1つは、大規模検証試験の対象が比較的軽度の人が対象となっているが、中重度の人への投与でどれだけ効果が上がるのかという点。2つめは副作用だが、先の大規模検証では、レカネマブ投与群の26.4%で発熱や悪寒、嘔吐などの症状(※2)が、12.6%に浮腫などが確認されたという。今後の国内審査でどのように審査されるかが注目される。
※1
ブラセボ投与群とは、薬効成分を含まない偽薬を投与した集団のこと
※2
インフュージョン・リアクションといい、インフルエンザ様症状などが代表的。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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