マイナカードとの一体化で保険証廃止、想定される課題は?

田中 元
2023.03.30

一体化にはどのようなメリットがあるか?
 政府は、マイナンバーカード(以下、マイナカード)と健康保険証の一体化を推進したうえで、2024年秋までに現行の健康保険証を廃止する方針を示している。

 政府がかかげる「一体化」のメリットとしては、たとえば、本人同意にもとづいて、本人の過去の薬剤情報や特定健診情報等を受診する医療機関・薬局に提供できるというしくみがある。これにより、患者のこれまでの薬剤服用歴等を正確に医師等に説明する手間を省き、過去の健康・医療データにもとづいて重複投薬や使用禁忌などが防止できる。

 また、転職・転居等による保険証の切り替えや更新が不要になること。書類提出によらず、自己負担限度額等を超える支払いが免除されること。さらに、マイナカードを利用した場合の患者負担が安くなる(現行で6円、2023年4~12月は12円)という政策的なしくみも患者には恩恵となる。

 ただし、現行の健康保険証が廃止されるとなれば、話は変わってくる。上記のようなメリットよりも、一体化で不利益を被ることがないかの方が気になるところだろう。
現行の健康保険証廃止で想定される課題
 たとえば、要介護や障害があることで「マイナカード交付のために庁舎等の窓口に出向く」のが困難な人はどうするか。こうしたケースについて、現行でも代理人に対する交付も認められているが、診断書や障害者手帳など(疎明資料という)による確認が必要だ。こうした疎明資料の提示が滞れば、一体化から取りこぼされる人も出てきかねない。

 そこで、デジタル庁では「マイナカードと健康保険証の一体化に関する検討会」を開催し、5回にわたるワーキンググループ(作業部会)での介護・障害福祉にかかわる団体等のヒアリングを経て、2月17日に中間取りまとめを行なった。その中で、たとえば上記の代理交付については、疎明資料の緩和を図るとともに、中学生以下や75歳以上の高齢者については疎明資料も不要とするなど代理交付の拡大を図るとしている。

 また、2023年度から高齢者・障害者の施設職員や支援団体等に代理交付等の支援の協力を要請する。その際には、各現場の本来業務に配慮したマニュアルを作成するとともに、支援にかかる助成も行なうとした。

 さらに申請に際しては、今年度から市町村職員が介護施設や医療機関などに出向いての出張申請のしくみも推進する予定だ。この出張申請については、希望する者の個人宅についても、本人の支援者(ケアマネジャーなど)の同行で進めることも検討されている。
「交付が間に合わない人」のための対策も
 それでも2024年秋の保険証廃止に間に合わないケースが生じることも想定し、①発行済みの健康保険証を廃止から最大で1年間有効とし、さらに②有効限度期間1年(1年を限度として自治体が有効期間を設定)の氏名・生年月日、被保険者番号等が記された資格確認書の提供も予定されている。

 こうして見ると、新たな予算措置もいろいろと発生しそうだが、結局のところマイナカードに対する国民の理解・信頼がカギとなるのは間違いないだろう。ちなみに、政府は介護保険証についてもマイナカードの活用(現行の保険証廃止は打ち出されていない)を進めることも検討している。国民の医療・介護・健康を、マイナカードが一気通貫しながら管理する時代がくるのかどうか。まずは、2024年秋までの動向に注目したい。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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