新型コロナ「5類」移行で医療・介護はどう変わる?

田中 元
2023.05.15

「行政の要請」から「個人の自主性」へ
 2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症が、「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」へと位置づけが変更された。季節性インフルエンザ等と同等の扱いとなり、基本的には、「法律にもとづき行政がさまざまな要請・関与をしていくしくみ」から「個人の選択を尊重し、国民の自主的な取組み」をベースとした対応への切り替えとなる。

 日常生活については、たとえば自身が感染しても外出自粛が求められることはない。あくまで「発症から5日間は外出を控えること」が「推奨される」というレベルになる。もちろん、「濃厚接触者」についての特定もなくなり、不織布マスクの着用や手洗い等の手指衛生などの基本的な感染対策への配慮は求められるが、個人の自主判断に任せられる。
コロナ治療薬などは当面公費での支援継続
 では、いざ感染した場合の医療はどうなるか。「5類」の季節性インフルエンザにならえば、原則として医療費の1~3割の自己負担が必要になる。ただし、新型コロナの治療薬は高額なため、その費用は一定期間公費で支援される。期間は当面9月末まで。それ以降は、感染拡大の状況をにらみつつ検討される。ちなみに、それ以外の外来診療費は自己負担が発生する。

 入院医療費についても、高額の負担増が想定されるため、やはり一定期間、高額療養費の自己負担限度額から2万円が減額される(2万円未満の場合はその金額)。検査も原則として公費負担は終了するが、重症化リスクが高い患者が多い医療機関や高齢者施設等での検査については、支援が継続される。

 その高齢者施設をはじめとする介護現場だが、上記のように医療面の下支えは一定程度継続するものの、要介護者の重症化リスクが高いとなれば、「自主的な取組み」となった感染対策のあり方が気になるところだろう。
介護サービス提供も一部で緩和策が終了
 政府の決定では、今回の「5類」移行後もクラスター感染のリスクが高い高齢者施設においては、引き続き感染対策の徹底を求めている。2021年度の介護サービスの基準改定では、全サービスを対象に「感染症の発生・まん延防止」のための指針の策定や定期的な委員会・研修・(感染発生時を想定した)訓練の開催・実施を義務づけた。厚労省令による定めなので、上記の義務づけに沿った感染対策が厳格に実施されていると考えていいだろう。

 ただし、たとえば「マスクの着用」については、ここでも「個人の判断に委ねる」ことを基本とし、高齢者施設等では利用者も従事者もマスク着用は「推奨」となっている。一方で、サービス事業者が感染対策上等の理由により「利用者や従事者にマスク着用を求めることは許容される」とした。つまり、「個人判断」を基本としつつ着用は「推奨」、一方で事業者は着用を「お願いできる」わけだ。

 もやもや感が募る方針だが、一応は「今までと変わりない」ととらえておきたい。ただし、サービス提供において変わる点もある。あくまでサービス提供側の規定だが、たとえば、感染防止の観点からケアマネジャーや看護師が「訪問の代わりに電話で安否確認や状態把握を行ってもOK」とした緩和規定があった。それが「感染対策を行なったうえで、通常通りにサービス提供を行なう」(臨時的な取扱いの終了)とされた。

 重症化リスクの高い介護サービス利用者としては、「何がどう変わるのか」についてしばらく混乱が生じることもありそうだ。不明な点は事業者に説明を求めるようにしたい。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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