介護現場はAI等最新技術が活躍する時代へ

田中 元
2023.05.29

テクノロジー活用による業務効率化が進む
 今年に入り、ChatGPTという対話型で文章作成等を手がけるAIが話題となっている。内容の正確性などの課題は多いものの、実用化が進む中でさまざまな産業分野の活動に大きな影響を与えることになりそうだ。

 高齢者に身近な介護分野でも、すでにAIが活躍している。最新のICT(情報通信技術)による、介護記録の作成や介護情報の共有を支援するシステムの一環だが、「どのように使われているか」が気になるところだろう。

 国は現在、2024年度の介護報酬・基準改定に向け、介護現場におけるさまざまなテクノロジー等の活用の効果検証の調査を行なっている。夜間の見守り機器などのセンサー技術をはじめ、先に述べた記録作成・情報共有といった業務支援システムも検証の対象だ。

 ご存じのとおり、介護業界は公定価格によって賃金が上がりにくい事情に加え、若年の労働力人口が減っていくという将来的な構造問題を控えて、現場の従事者不足が大きな問題となっている。カギの1つが、最新テクノロジー等を活用した業務の効率化だ。国としても、こうした技術活用を制度上でどのように位置づけ、浸透させるかに腐心している。
利用者情報の音声入力で迅速な情報共有も
 では、先の介護業務支援の技術とは、具体的にどのようなものなのか。今回の効果検証で、調査対象となった現場(特養ホームなどの施設や認知症GHなどの居住系サービス)に導入されたものを取り上げてみよう。

 利用者の重度化防止や適切な療養支援を行なうのに不可欠なのが、本人の日々の心身の状況を随時記録し、できる限りリアルタイムで従事者間共有を図ること。仮に「いつもと違う状況」が生じていれば、共有スピードが速いほど迅速な対応(医療等につなぐなど)が可能となり、容態等の悪化なども防ぎやすくなる。このことは介護事業の稼働率にも影響し、収益の悪化を防ぐことにもつながる。

 問題は、①現場で利用者の状態を確認⇒②逐一手書きや端末操作で入力する(場合によっては、デスク等に移動する、後でまとめて入力する)という手間や時間ロスが生じることだ。深刻な従事者不足の中では、大きなネックとなる。そこで活躍するのが、①の時点で「利用者の状況」をその場で端末に音声入力するというシステム。インカムと連動させれば、わざわざ端末を手に取る手間も省ける。
AIが、音声から介護情報だけを読み取り
 これだけなら、スマホの音声入力機能などと大差はないが、ここで先のAI技術が加わる。国の効果検証で用いた技術は、発した音声から「介護記録に関連する言葉」だけをAIが読み取るというもの。そのAIが読み取った情報は、自動的に連動する介護記録ソフトに記録される。この介護記録ソフトも、多様な情報(センサー情報や画像情報含む)を自動で一元管理できるものが活用されている。

 もちろん、課題がないわけではない。たとえば、音声入力の場合、利用者を識別する必要があるので対象者の名前などを「音声」で示さなければならない。第三者がいる現場で発するとなれば、プライバシー保護の問題も生じてくる可能性がある。調査では「隠語やあだ名を使う」といったルール策定の話も出ているが、普及に向けてはこうした組織的な対応も検討課題として上がってくるだろう。

 いずれにしても、介護業務の姿はAI等のテクノロジーを通じて大きく変わりつつある。今後、介護保険を利用する立場としても、頭に入れておきたい未来像といえる。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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