「顧客の最善の利益を図る義務」が法制化へ

加藤 悠
2023.06.05

 去る2023年3月14日、金融庁から「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。この中には、拙稿No.4434で取り上げた「顧客本位タスクフォース」の中間報告を踏まえたものが反映されていますので、内容を確認してみましょう。
改正法案の中身は?
 「顧客本位タスクフォース」の中間報告には、以下のような提言がありました。
顧客の最善の利益を図るべきであることを広く金融事業者一般に共通する義務として定めることで、「顧客本位の業務運営」の取り組みを一歩踏み込んだものとすることを促す
 改正法案はそれを受けて、金融商品取引法36条1項の「誠実公正義務(金融商品取引業者は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない)」を削除し、それに代わって、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(現在の金融サービスの提供に関する法律(金融サービス提供法))2条1項で、以下のような規定を設けることとしています。
金融サービスの提供等に係る業務を行う者は、次項各号に掲げる業務又はこれに付随し、若しくは関連する業務であって顧客(次項第14号から第18号までに掲げる業務又はこれに付随し、若しくは関連する業務を行う場合にあっては加入者、その他政令で定める場合にあっては政令で定める者。以下この項において「顧客等」という。)の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定めるものを行うときは、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。
 従来の「誠実公正義務」との違いとしては、太字にした「顧客等の最善の利益を勘案しつつ」という文言が追加されている点で、これが、「顧客本位タスクフォース」の提言における「顧客の最善の利益を図る(べきであることを広く金融事業者一般に共通する)義務」ということになります。
「顧客の最善の利益を図る義務(最善利益義務)」の詳細は?
 ところで、「顧客の最善の利益を図る義務」とは、具体的にどのようなことが求められるのでしょうか?

 ヒントとなる「顧客本位タスクフォース」の中間報告では、「“顧客の最善の利益を図るべき”ことを法律上定めることにより、誠実公正義務に内包されるべき“最善利益義務”が明確化されるとも考えられる」と書かれています。改正法案がそれを踏襲したものと考えた場合、保険販売に携わるみなさんに関して考えると、「特定保険契約」を販売する場合には、保険業法において金融商品取引法が準用されており、そこで誠実公正義務が課されていたわけなので、新たな何かを課されるわけではない、という整理はできそうです。ちなみに、今回の改正法案における「金融サービスの提供等に係る業務を行う者」に、「保険会社ならびに保険代理店」は含まれているので、改正法施行後はすべての保険商品の販売時にこの義務が課されることとなります。

 また、「顧客本位タスクフォース」の中間報告では、「(最善利益義務は)金融事業者一般に共通する義務とされる場合であっても、その内容は全ての金融事業者に一律というものではなく、金融事業者の業態、ビジネスモデルなどの具体的な事情に応じて個別に判断されるべきである」という意見も記されていることを考えると、この義務は抽象的な内容であることは否めず、法施行までの間(各種政令の制定まで)に様々な整理がなされていくものと考えられます。

 なお、今国会(第211回)の会期は6月21日までですので、そこで成立、公布された場合、改正法案の附則1条により、公布から1年を超えない範囲で施行されることとなっているため、2024年中には施行される見通しとなっています。
参照:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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