年間の介護離職者、再び10万人台に

田中 元
2023.08.31

5年前(2017年)は10万人割れだったが
 総務省が、令和4(2022)年の就業構造基本調査の結果を公表した。同調査は5年おきに国民の就業・不就業の状況を調査したものだ。その中の年齢層データを見ると、5年前(2017年)と比べて60歳以上の就業者が急速に増えている。年齢層から考えて、就業しながら「家族(親や配偶者)の介護」に直面しやすい人も増えていることが想定される。そこで、同調査から「家族の介護・看護のために離職する人(以下、介護離職者)」の動向がどうなっているのかに着目したい。

 2022年10月時点での「過去1年間の介護離職者数」を見ると、10.6万人となっている。過去の統計では、10年前の2012年調査で10.1万人、5年前の2017年調査では9.9万人まで減少した。それが、再び10万人台に達したわけで、家族の介護が就業状況に強く影響している様子がうかがえる。ちなみに、出産・育児による離職者数は、2017年の21.5万人から2022年は14.8万人へと6.7万人減少となっている。まさに対照的な数字だろう。
奇しくも、2017年以降介護休業等は拡充
 さて、「介護離職者10.6万人」の内訳だが、有業者(転職等で再び就業している者)が2.3万人に対し、無業者は8.3万人。後者は5年前の2017年から8000人増加しており、これも事態の深刻さをうかがわせる数字といえる。

 こうした介護離職者、特に無業者を増やさないための支援策として介護休業制度が定められ、制度を使いやすくするための改正もたびたび行われてきた。奇しくも2017年1月には介護休業制度(対象家族1人につき通算93日)の3回までの分割取得が可能となり、それとは別に取得できる介護休暇(対象家族1人につき年5日)についても、2017年1月に「半日単位」、2021年1月からは「時間単位」の取得が可能に。所定外労働の制限も2017年1月から導入され、介護休業給付も2016年8月以降に休業開始した場合に40%から67%へと引き上げられている。

 このように、2017年から2022年の間にさまざまな支援策の拡充が行われたわけだが、それでも介護離職および、その後の無業者が増えている状況を見ると、国の対策も手詰まり感が漂わざるを得ない。
問題は企業や就業形態による支援格差の拡大?
 もっとも、今調査では、悲観一色というわけでもないデータも見られる。それが、「介護をしている者」全体から見た就業の状況だ。2017年と2022年の比較で見ると、「介護をしている者」は1万人近くの微増だが、無業者は約17万人減っている。一見先のデータと矛盾するようだが、要するに「働きながら介護を続ける人」も増えていることになる。

 問題は、介護離職して無業となる人も増えている中では、支援が行き渡っている人とそうでない人の格差が広がっている可能性だ。たとえば、企業によって支援策をしっかり整えているか否か、あるいは正規社員か非正規社員かによって、「介護をしながら働き続けられる」環境に差が生じていると考えられる。

 厚労省は、「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」を開催し、今年6月に報告書をまとめている。そこでは40歳以上の従事者への両立支援制度の一律周知などを企業に求めているが、制度面での改革案は乏しい。今後も「介護者となりやすい年齢層」の増加が確実な中、たとえば「産業医」のように「ケアマネジャー」の配置を企業に義務づけるなどの施策も必要になるかもしれない。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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