年休取得率58.3%、過去最高だが政府目標とは開きも

庄司 英尚
2023.09.11

取得率が上がらないのは「請求することへのためらい」
 年次有給休暇は、働く方の心身のリフレッシュを図ることを目的として、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならないことになっている。しかし、請求することへのためらいや社内風土等の理由から、欧米に比べ、年次有給休暇取得率は低調な状態にあるといえる。

 今回は厚生労働省の発表した年次有給休暇取得率のデータを見ながら今後の年次有給休暇取得促進のためにできることを考えていくことにする。
「令和7年までに取得率70%以上」目標には遠く及ばない?
 厚生労働省が昨年10月に発表した「令和4年就労条件総合調査」によると、2021(令和3)年の1年間に企業が付与した年次有給休暇取得率は58.3%(前年調査では56.6%)であり、調査開始以来過去最高となった。しかし、政府が過労死等防止対策大綱に掲げる「令和7年までに年次有給休暇取得率70%以上」という目標には遠く及ばない状況だ。

 2019(平成31)年4月の労働基準法改正により、会社は10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての労働者に対し、毎年5日間、時季を指定して有給休暇を取得させることが義務となった。それゆえに近年の取得率はもっと高くなっていいはずなのだが、実際には年次有給休暇の取得率はそれほど上昇していないのは何か問題を抱えているといえる。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入を
 取得率を従業員数規模別に見ると、従業員1,000人以上の企業は63.2%、それに対して30人以上100人未満の企業は53.5%と平均の58.3%を下回っており、企業規模による差はあるものの格段に取得率が違うわけではない。目標の7割を目指すためには、企業規模に関わらずいずれの企業もまずは年次有給休暇の計画的付与制度の導入を検討してみてはどうだろうか。

 この制度により、年次有給休暇のうち5日を超える分については、労使協定を結べば計画的に休暇取得日を割り振ることができるようになる。導入すれば計画的に取得日が割り振られるので、請求することへのためらいが原因となっている職場では取得率の向上に寄与するはずだ。

 近年は、職場環境が年次有給休暇を自由に取得できない会社ほど優秀な人材を採用することが難しくなってきている。求職者は応募前にインターネットで口コミも含め情報収集しているので、「休みもろくに取れない」という評判が多数ある会社はそもそも応募対象にすらならないのだ。

 経営陣が意識を変えて改革に本気で取り組めば、徐々に取得率をアップさせることは可能であるし、従業員の満足度も高くなる。まずは自社の年次有給休暇取得率を部署、雇用形態別にデータ分析して、現状把握することから始め、目標達成に向けて動き出してほしい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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