働きながら年金を増やす在職定時改定とは

三角 桂子
2023.11.27

 人生100年時代、年金を受け取りながら働く人が増えています。2022年4月より、働きながら老齢厚生年金を受け取っている人にとって朗報の「在職定時改定」について解説します。
年金を再計算するタイミング
 従来は65歳を過ぎて働き続けた場合、「退職する」、もしくは「70歳になる」まで、年金額を再計算することはありませんでした。退職した翌月分の年金額から再計算(見直し)することを「退職改定」といいますが、実際に65歳以降に働いた分の年金が上乗せされるのは70歳になった時、もしくは退職した時からとなっていました。

 2022年4月からの「在職定時改定」では、65歳から70歳になるまで年金額を1年に1回、再計算する形に変わりました。そのため、働きながらでも受け取る年金額が増えていくことになります。年金額を再計算する回数が増えたことで、受給する人にとって年金が増えることが実感しやすくなったのです。

 具体的には、下図のように、毎年、基準日(9月1日)に前年9月から当年8月までの厚生年金保険に加入していた期間を加算して、基準日の属する月の翌月(10月)に年金額の再計算を行います。
出典:
在職定時改定の盲点
 お客様から「いくらの給料までだったら、年金を全額受け取れるのでしょうか?」というご相談をよく受けます。こちらは「在職老齢年金」制度のお話になります。

 在職老齢年金とは、収入が多い人が厚生年金保険に加入しながら働いている場合、受け取っている年金の一部(もしくは全部)が支給停止される制度です。厚生年金保険の加入は70歳になるまでですが、この支給停止の制度は、70歳以上の方でも厚生年金保険のある会社で働いている場合には適用されることになっています。ただし、停止される年金は、厚生年金保険(老齢厚生年金)部分のみで国民年金(老齢基礎年金)部分は減額されません。

 原則として、1ヵ月あたりの報酬(賞与含む)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計額が基準額(2023年度は48万円)を超えると、超えた分の半分が支給されなくなる考え方となります。

 基準額ギリギリで、「年金は支給停止されずに全額受け取りたい」と考えていても、在職定時改定により年金額が増えてしまうことで、増えた分の年金が一部停止になってしまう可能性もありますし、そもそも48万円の基準額は毎年変動する可能性があるものです。もちろん、賞与・報酬の変更も支給停止に関係してきますので、なかなか計算通りにはいかないことも考えられます。
まとめ
 人生100年時代の中で、働き方も年金の受け取り方も人それぞれです。制度を理解し、納得した働き方や年金の受け取り方を選択することが必要です。
三角 桂子(みすみ・けいこ)
社会保険労務士法人エニシアFP 代表社員
FP・社会保険労務士

大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルとあらゆる立場を経験し、FPと社会保険労務士として開業し、5年目に法人化(共同代表)。
FPと社会保険労務士の二刀流を強みに、法人・個人の労務、年金の相談業務やセミナー、執筆など、幅広く行っている。
常に自身の経験を活かし、丁寧な対応を心がけ、生涯現役に向かって邁進中。
法人名はご縁(えにし)に感謝(ありがとう)が由来。

公式サイト https://sr-enishiafp.com/

▲ PAGE TOP