相続人申告登記制度が新設されます

髙野 守道
2023.12.25

相続登記をする際に行方不明者がいたら!?
 前回(NO.4576)、正当な理由もなく相続登記をしない者は10万円以下の過料に処せられるかもしれないというお話をしました。

 例えば、5年前に父名義の土地を相続したものの登記未了の3人の子供がいたとします。便宜上、子供の名前をA・B・Cとしましょう。このとき、相続登記の義務は、ABC全員に発生します。令和6年4月、AとBは相続登記義務化を知り、登記をしたいと考えました。しかし、Cは10年以上前から行方不明であり、5年前の相続発生時に登記をしなかった理由は、遺産分割協議ができなかったことにありました。この状態が続くとABC全員が過料に処せられる可能性があることになりますが、それではAとBに過酷です。

 そこで、このABのように、相続登記をしたいけれども何かの理由で相続登記ができない者のために、義務を履行したものとみなす制度が用意されました。それが「相続人申告登記」と呼ばれるものです。これは、令和6年4月1日から導入される新しい制度です。この相続人申告登記をした者は、過料を免れますので、AとBはこの相続人申告登記をすることで過料を回避できます。

 ちなみに、AとBは、相続人申告登記をするまでもなく、現在のルールを使用して相続登記をすることができます。それは「法定相続分で登記をする」ことです。AとBが5年前に相続登記を諦めた理由は、遺産分割協議ができなかったことでした。しかし、相続登記をするのに遺産分割協議は必須ではありません。法定相続人の法定相続分での登記であれば、遺産分割協議書を添付する必要はないのです。つまり、ABCの持分各3分の1の相続登記であれば遺産分割協議(書)は不要です。(ただし、懸念事項もあるので必ず司法書士に相談してください。)
相続人申告登記が有用なケース
 それでもCが行方不明であれば登記申請ができないのではないかと思われるかもしれません。ところが、相続登記は保存行為とされていますので、権利者の一人から申請することができます(不動産登記法第63条第2項)。つまり、AまたはBのどちらかだけによる単独申請もしくはAとBによる共同申請によって、ABC持分各3分の1とする相続登記が可能です。

 あれれ? 相続人申告登記っていらなくない? そう思うかもしれません。安心してください、有用な場面があります。例えば、古い相続を放置しているケースで法定相続登記をしようとすれば、何十人何百人という法定相続人をすべて明らかにする戸籍が必要になりますが、相続人申告登記では自分が相続人の一人であることを証明するだけの戸籍の量で済みます。これは想像以上に時間と費用の軽減につながると考えられますので、古い相続を放置しているケースでは、相続人申告登記の検討が有用と考えられます。
髙野 守道(たかの・もりみち)
川のほとり司法書士事務所
司法書士

23歳からタクシー運転手になり34歳で個人タクシーを開業。開業2年後の東日本大震災をきっかけに司法書士試験の勉強を開始し、2015年合格。翌年に登録し、昼は司法書士、夜は個人タクシーという二足の草鞋を3年間続け、2019年から司法書士に一本化。地元葛飾において、成年後見、相続を中心に執務中。

若いころに勉強をしなかったことが功を奏し、中年になって勉強に目覚める。日本成年後見法学会、日本登記法学会、日本障害法学会などに所属する傍ら、大学の通信教育も受けている。元野球部でお笑い芸人を目指したこともあるなど、その声の大きさを活かし、相続・成年後見・遺言に関する講演実績も多数あり。

川のほとり司法書士事務所
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