公益信託の制度改革に伴う税制改正

清塚 樹
2024.01.29

 内閣府では、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現のため、民間による社会的課題の解決に向けた公益活動を活性化させる目的で、公益法人等の制度改革に取り組んでおります。この取り組みの一つである公益信託の制度改革をうけて、令和6年度税制改正大綱において、公益信託制度に対する税制上の措置(※)が講じられることとなったため、今回はその内容について解説したいと思います。
令和6年の通常国会に関連法案が提出され、令和8年に施行予定。
これからの公益信託について
 公益信託とは、個人や法人(委託者)が、学術・技芸・慈善・祭祀・宗教その他一定の公益目的のために、信託銀行(受託者)に自分の財産を預け、信託銀行は、信託法や公益信託契約にしたがってその財産を管理・運用し、公益活動を行っていく制度です。

 具体的な公益活動としては、学生への奨学金の支給、学術研究や自然環境保護活動への助成、教育・芸術・文化の振興、社会福祉、国際協力や国際交流の促進、まちづくり活動など幅広い分野が挙げられます。

 公益信託を公益法人と比較すると、公益法人よりも軽量・軽装備の運営で公益活動を行うことが可能であり、社会貢献のツールとして大きな潜在的需要がありましたが、さまざまな制約があるためあまり利用されていませんでした。今回の制度改革により利便性が向上され、新しい公益信託が民間公益活動のための選択肢のひとつとして、より一層活用されることが見込まれています。
公益信託における税制改正の内容
 公益信託制度改革による新しい公益信託制度の創設に伴い、公益信託に、公益法人並みの税制上の措置が講じられることとなりました。個人所得税における具体的な主な内容は次の通りです。
公益信託の信託財産につき生じる所得については、所得税を課さない。
公益信託の信託財産とするために支出した一定の寄附金については、公益法人に対する寄附金と同様に、寄附金控除の対象とする。
公益法人等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税措置について、適用対象となる公益法人等の範囲に、公益信託の受託者(非居住者及び外国法人に該当するものを除く)を加える。   等
 これまではNPO法人や公益法人などが民間公益活動の主体でしたが、制度改革と税制改正の後押しにより、今後は新しい公益信託も民間公益活動を担っていくことが予想されます。自分の財産を公益活動のために寄附したいと考えている方に対して、多様化する選択肢の中から、ベストな方法を、検討・提案できることが、社会課題解決に繋がる一歩になると考えます。
参照:
清塚 樹(きよづか・たつき)
税理士。清塚樹税理士事務所 代表。
群馬県出身。大手税理士法人の勤務を経て2022年に独立。独立と同時に、豊富な知見と実務経験を有した税理士が集まるプラットフォームとして、レアル合同会計事務所を立ち上げる。大手証券会社・住宅メーカー・保険会社などから、資産税に関する税務相談を数多く受ける。専門領域は、相続・事業承継のほか、公益法人の会計税務も得意としている。
事務所HP:https://www.real-tax.jp

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