共働き夫婦の年金~加給年金~

三角 桂子
2024.05.23

 公的年金は制度が複雑でわかりにくいといわれますが、それは、法改正や経過措置のあることが理由と考えられます。さらに、受け取る人の働き方や生年月日等によっても、年金額は異なります。おひとりさまの年金額は、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できますが、夫婦2人で生活している場合はどうでしょうか。Aさん夫婦を例にご説明します。
ねんきん定期便に記載されていない情報
 Aさん夫婦は、夫が58歳、妻55歳の共働き夫婦です。60歳の定年も間近なため、今後の働き方や年金額が気になるところです。お互いのねんきん定期便で65歳からの年金額は見込額で把握しています。ただ、職場の先輩から、家族手当のような「加給年金」があると聞きましたが、ねんきん定期便には記載がありません。

 日本の高度経済成長期では、「夫が外で働き、妻が家庭を守るべきである」という家族モデルが多く、夫婦で一つのお財布(収入)と考えられていました。公的年金もこの家族モデルで考えるならば、長期(原則20年以上)に厚生年金保険に加入している夫に家庭を守る年下の妻がいる場合「夫の年金には家族手当が上乗せされる」、これが加給年金です。ただし、夫婦の立場が逆のケースもあります。

 現在では、共働き夫婦が増えているため、家庭を守るだけの配偶者は減少しています。お互いが20年以上の厚生年金保険の加入期間があると、加給年金には期待できないこともあります。ただし、Aさん夫婦のように年の差があると、年下の配偶者(男女問わず)が老齢年金の受給権を有するまで、加給年金が受け取れる可能性があります(Aさん夫婦とも受給権は65歳から得る前提)。

 Aさんが加給年金を受け取れる期間は、夫が65歳になってから、妻が65歳になるまでの約3年間です。1年で約40万円の加給年金が3年分で約120万円上乗せされます。

 年下の配偶者がいても、要件を満たしていない、例えば「65歳からの年金を遅らせて増やしたい」など、繰下げにより加給年金の土台となっている厚生年金保険(報酬比例部分)が全く支給されていない人や、20年以上厚生年金保険に加入して特別支給の老齢厚生年金を受給している配偶者がいる人には、加給年金の加算は行われないので、注意が必要です。
いまだに家族モデルは変わっていない?
 共働き世帯が多数とはいえ、働く女性の53.2%は非正規雇用で、夫の扶養の範囲内で働くパート労働者が多いことが想像できます。働き方改革の一つである被用者保険の適用拡大により、社会保険に加入する人が増えていますが、夫が主に働き、妻は専業主婦という家族モデルがまだまだ多いのかもしれません。

 加給年金は夫婦の生年月日や働き方で変わってくるので、気になる人は専門家や年金事務所に相談することをおすすめします。
参考:
三角 桂子(みすみ・けいこ)
社会保険労務士法人エニシアFP 代表社員
FP・社会保険労務士

大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルとあらゆる立場を経験し、FPと社会保険労務士として開業し、5年目に法人化(共同代表)。
FPと社会保険労務士の二刀流を強みに、法人・個人の労務、年金の相談業務やセミナー、執筆など、幅広く行っている。
常に自身の経験を活かし、丁寧な対応を心がけ、生涯現役に向かって邁進中。
法人名はご縁(えにし)に感謝(ありがとう)が由来。

公式サイト https://sr-enishiafp.com/

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