亡くなった人の預金口座は凍結される
亡き親の葬儀費用はどうする?

西海 重尚
2024.06.10

遺産分割協議が完了する前の相続預金の払戻制度は2つ
 金融機関では預金口座の名義人が亡くなったことがわかると、預金口座の凍結が行われる。民法の原則により、亡くなった人の全財産は、相続人の共有財産となる。預金口座の凍結を解除するためには、相続人全員による遺産分割協議が完了していなければならない。とはいえ、遺産分割協議が完了するまでに時間がかかることもあり、その間に葬儀費用、故人の入院費や介護費用の支払い、相続人の当面の生活費などが必要になることがある。

 そのような場合に対応するため、遺産分割協議が完了していなくても相続預金の払戻しができる制度が2つある。「金融機関に直接申請する制度」と「家庭裁判所の認可後に金融機関へ申請する制度」である。これらを利用することにより、相続預金の一定額を単独で払戻しすることができる。

 なお、単独で払戻しを受けることはできるものの、払戻しにより受け取った金額は、受け取った人が相続分として取得したものとみなされ、遺産分割協議においては、その分を考慮しなければトラブルになりかねないことに注意が必要である。
金融機関に直接申請する制度
 相続の紛争がない場合、必要書類として被相続人の除籍謄本、戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、払戻しを申請する相続人の印鑑証明書などをそろえて金融機関に直接申請する。単独で払戻しができる金額は、「相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分」である。たとえば、相続開始時の預金額が900万円で、相続人が長男・長女・次男の3人であった場合、長男が単独で払戻しができる金額は100万円となる。

 900万円×1/3×1/3=100万円

 なお、同一金融機関からの払戻金額は150万円が限度となる。
家庭裁判所の認可後に金融機関へ申請する制度
 相続紛争がある場合には、家庭裁判所へ申し立てを行い、認可を受けることにより、金融機関から単独で払戻しを受けることができる。家庭裁判所の審判書謄本や払戻しを申請する相続人の印鑑証明書などが必要になる。単独で払戻しができる金額は、家庭裁判所が認めた金額である。
すぐに使える現金を準備するには生命保険の活用も有効
 人が亡くなると葬儀費用をはじめ、何かとすぐに現金が必要になることが多い。相続預金の払戻制度以外にも、生命保険の活用が有効である。生命保険から受け取る死亡保険金は受取人の固有財産とされ、遺産分割協議の対象外となるため、単独手続きが可能である。しかも死亡保険金は、請求書類が到着後1週間程度で現金を受け取ることができる。葬儀費用など死後の整理資金の確保には生命保険も有効に活用したい。
西海 重尚(にしうみ・しげひさ)
西海FP事務所 代表
CFP®認定者、1級 ファイナンシャル・プランニング技能士、公的保険アドバイザー、終活アドバイザーなどの資格を保有。

慶應義塾大学 経済学部卒。
33年間のサラリーマン生活において大手損害保険会社、生命保険会社、FP系出版社に勤務。
現在は独立系FPとなり、保険のアドバイザーとして活動中。

自己紹介用ホームページ https://fuku29390fpo.com

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