従業員へ伝えたい社会保険加入のメリット

庄司 英尚
2024.07.01

10月から従業員51人以上の会社はパートも加入対象に
 法改正により社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入対象が段階的に拡大している。2016年10月から従業員数501人以上の会社で、2022年10月から従業員数101人以上の会社で、そして2024年10月から従業員数51人以上の会社で働くパート・アルバイトのうち、以下の要件をいずれも満たす者は厚生年金保険と健康保険の加入が義務付けられている。
週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(残業時間は原則含まない)
所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代、賞与、通勤手当、臨時の手当は原則含まない)
2か月を超える雇用の見込みがある
学生ではない(通信教育や定時制、休学中は加入対象となる)
 従業員数51人以上の会社で働いているパート・アルバイトで、上記の要件にあてはまる方は、この10月から新たに社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入対象になることから、要件に該当しないように仕事を制限するなど働き方の変更を検討している方も多いことだろう。

 従業員数51人以上の会社の人事担当者や現場管理者としては、新たに社会保険に加入することになるパート・アルバイトに対して、社会保険加入のメリットをしっかり伝え、従業員が納得したうえで資格取得手続きを円滑に進めるようにしたい。
社会保険料の半分は会社持ちで保障は手厚くなる
 これまで国民年金第1号被保険者・国民健康保険加入者であった方は、これまで保険料を全額自身で納めてきたが、社会保険に加入することで保険料(厚生年金保険・健康保険)の半分を会社が負担してくれるようになる。

 一方、サラリーマンや公務員など(厚生年金加入者)に扶養されている配偶者で年収が130万円未満の方は、自身で公的年金・公的医療保険の保険料を納めなくても、年金については国民年金第3号被保険者(20歳以上60歳未満)、医療保険については健康保険の被扶養者(75歳未満)という恩恵を受けられたわけだが、実は自身で社会保険に加入するメリットもたくさんある。

 年金については、厚生年金に加入すると年金が2階建てになり、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができるようになるのは大きなメリットである。さらに厚生年金保険の加入期間中に障害がある状態になった場合、受給要件を満たしていれば、障害基礎年金に加えて障害厚生年金も支給されるので、国民年金だけの時よりは手厚い保障を受けることができる。

 障害年金の支給は、障害の状態に応じて法令により障害の程度が定められており、障害基礎年金は障害等級1級及び2級だけなのに対し、障害厚生年金はこれらに加えて3級と障害手当金まであり、障害の程度によるが障害基礎年金には該当しなくても障害厚生年金なら支給を受けられる可能性もある。

 医療保険については、企業独自や協会けんぽの健康保険に加入していると、傷病手当金(国民健康保険にはない)の給付を受けることができるのが大きなメリットだ。傷病手当金は業務外の傷病により連続4日以上働くことができなくなり、その間給与が支給されない場合に働くことができない期間(最長通算1年6か月)、通常の給与の約3分の2が健康保険から支給される。

 また、健康保険には出産手当金という給付もある。出産のために会社を休み、給与が受けられない場合、産休中の間、通常の給与の約3分の2が健康保険から支給される。
社会保険に加入するならもっと働きたいという人も増える
 これまで扶養の範囲内で働こうと、年収130万円未満に抑えていたパートやアルバイトの従業員の中には、今回の改正で社会保険に加入することになるなら、これを機会にもっと長時間働きたいと思う人も出てくるはずだ。そういう人にとっては、収入を増やすことができるチャンスでもある。会社は従業員が希望する働き方にあわせて週の所定労働時間のパターンを細かく用意し、自由に選択できるようになれば、社会保険の加入対象となる従業員の満足度も高まるだろう。

 社会保険に加入すると手取りが減る――そのことばかり気にしていて長期的な視点を持たない従業員が多いが、一方で、将来の年金額を増やせる、病気や出産による休業に対して給付があることから、社会保険に加入できる会社を探している人もいるので、人手不足の会社においては社会保険に加入できることをアピールすれば採用面で有利になることもある。人事担当者や現場管理者は、厚生労働省の特設サイトなどの資料や情報を有効活用して、大切なことを正確に伝えていただきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

▲ PAGE TOP