年金の定期健康診断~財政検証~

三角 桂子
2024.08.22

 年金制度は5年に1度、定期健康診断を行い、年金財政の健全性を検証しています。これを財政検証といいます。財政検証では5年ごとに人口構造や経済状況等をシミュレーションし、おおむね100年という長期間の将来の見通しを作成しています。
2024年7月3日、結果が公表
 前回の定期健診(2019年)から5年を経過した2024年が診断の年となっています。若い世代では、「どうせ年金なんて受け取れない」「保険料を払っても損する」と不安視する声を聞くことが多いのですが、財政検証では所得代替率を50%下回ることがないかどうかが検証されています。

 所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すものです。

 2024年度の所得代替率は、夫婦の年金額22.6万円(夫婦2人の基礎年金13.4万円+夫の厚生年金9.2万円)を、現役男子の平均手取り収入額37.0万円で除して求め、61.2%となっています。今回、将来の所得代替率を4つの社会・経済状況に関する諸前提をもとに試算し、良いケース(成長型経済移行・継続ケース)だと57.6%、悪いケース(過去30年投影ケース)でも50.4%を維持できるものとなっています(1人当たりゼロ成長ケースを除く)。
オプション試算の注目点
 さらに今後、年金の制度を改正した場合の給付水準や財政への影響を試算したものが「オプション試算」で、その一部を簡単に説明すると以下のとおりになります。
1.
被用者保険の更なる適用拡大
たとえば所定労働時間が週10時間以上のすべての被用者を適用対象とする場合、厚生年金の被保険者は約860万人拡大し、成長型経済移行・継続ケースでは所得代替率が3.6%プラスになると見込まれる等。
2.
基礎年金の拠出期間延長・給付増額
たとえば基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年から45年に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合、成長型経済移行・継続ケースでは所得代替率が7.1%プラスになると見込まれる等。
3.
マクロ経済スライドの調整期間の一致
基礎年金と報酬比例部分に係るマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合、成長型経済移行・継続ケースでは所得代替率が3.6%プラスになると見込まれる等。
4.
在職老齢年金制度
65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組み(在職老齢年金)を撤廃した場合、働く年金受給者の給付が増加する一方、将来の受給世代の給付水準が低下する(基礎年金への影響はない)等。
5.
標準報酬月額の上限
厚生年金の標準報酬月額の上限(現行65万円)を、75万円・83万円・98万円に見直した場合、厚生年金の保険料収入の増加により報酬比例部分の所得代替率が上昇する(基礎年金への影響はない)等。
 上記の結果を受けて年金制度改正の議論がなされることになりますが、注目されていた2の「国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する」については、今回見送りとするとの発表が行われています。
まとめ
 被用者保険の適用拡大や女性の社会進出、高齢者の就労促進等により、今回の財政検証は2019年の検証結果より回復した内容となりました。

 年金制度はその時代背景等によって見直しが必要となります。年金が目減りするなど、不安をあおるような記事もありますが、まずは一人ひとりが公的年金制度の理解を深め、きちんと保険料を納付し、将来に備えてほしいものです。
参考:
三角 桂子(みすみ・けいこ)
社会保険労務士法人エニシアFP 代表社員
FP・社会保険労務士

大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルとあらゆる立場を経験し、FPと社会保険労務士として開業し、5年目に法人化(共同代表)。
FPと社会保険労務士の二刀流を強みに、法人・個人の労務、年金の相談業務やセミナー、執筆など、幅広く行っている。
常に自身の経験を活かし、丁寧な対応を心がけ、生涯現役に向かって邁進中。
法人名はご縁(えにし)に感謝(ありがとう)が由来。

公式サイト https://sr-enishiafp.com/

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