長生きするリスクのために金融資産を生涯持ち続けることの注意点

西海 重尚
2024.08.26

老後資金として準備した金融資産はあまり取り崩されない
 内閣府がまとめた「令和6年度 年次経済財政報告」によれば、老後資金として準備された金融資産は60~64歳までは年齢とともに増加するが、その後は年齢が経過しても大きくは減らないという。高齢者は、公的年金や働くことによる所得の範囲内でほとんどの消費活動を賄っており、老後資金として準備してきた金融資産を取り崩す程度は、非常に限定的であることを示しているとのこと。

 もはや多くの高齢者が公的年金だけでは老後生活には対応できないと認識しており、総務省統計局の調査では60~64歳の就業率は73%、65~69歳では50.8%となっている。政策金利が0.25%に引き上げられ、定期性預金で保有することの魅力も増した。

 老後資金として準備してきた金融資産は、もしものときのために手をつけずにおきたいということであろう。
出典:
平均寿命が延びてますます長生きする時代に
 厚生労働省が公表した「令和5年簡易生命表」によれば、男性の平均寿命は81.09歳、女性の平均寿命は87.14歳であり、男女とも3年ぶりに前年を上回った。国際比較でみれば、男性は世界第5位、女性は世界第1位であった。長寿化が進み、日本では、男性の約4分の1、女性の約2分の1が90歳以上まで生きるという現状から、長生きするリスクがより強く意識されていることがわかる。

 医療保険やがん保険に加入して、もしものときの備えはしていても、80歳を過ぎれば働いて継続的に収入を得ていくことは難しく、とは言っても、いざというときには子どもが頼りになるという保証もない。そうすると、長生きするリスクに対して、本当に頼れるものは自分の金融資産しかない、という考え方も理解できる。
出典:
相続時、金融資産は時価で評価される
 金融資産を持ち続けることの理由を理解できる反面、注意も必要である。

 相続時には、保有している金融資産はすべて、相続財産として時価で評価されるのが原則である。相続税額の計算上、金融資産を含めた相続財産の価額が「基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下であれば相続税はかからない。たとえば、もし基礎控除額を少し超えてしまうのであれば、相続税がかからないようにするためには、土地や建物などの不動産を簡単に売却することは難しいので、金融資産の評価減対策が必要になってくる。
一時払終身保険を活用する
 金融資産の評価減対策として「一時払終身保険」を活用するという方法がある。

 現金で持っていればそのまま全額が課税されるが、死亡保険金として現金を受け取れば、受け取った保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までの金額は非課税となる。この死亡保険金の非課税の特典を受けるには、契約者=被保険者が被相続人、死亡保険金受取人が相続人という契約形態でなければならない。

 一時払終身保険は被保険者の健康状態に関係なく加入できる商品もあり、70代や80代で加入すると一時払保険料と死亡保険金額がほぼ同額となる。

 現金が保険金に変わるというイメージで、現金でそのまま持っているよりも、死亡保険金の非課税の特典を受けることにより、相続財産の評価額を減らすことができ、その結果、税負担の軽減が図れるため有利となる。
西海 重尚(にしうみ・しげひさ)
西海FP事務所 代表
CFP®認定者、1級 ファイナンシャル・プランニング技能士、公的保険アドバイザー、終活アドバイザーなどの資格を保有。

慶應義塾大学 経済学部卒。
33年間のサラリーマン生活において大手損害保険会社、生命保険会社、FP系出版社に勤務。
現在は独立系FPとなり、保険・年金・相続に強いアドバイザーとして活動中。

自己紹介用ホームページ https://fuku29390fpo.com

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