加入促進強化月間にちなんで、中退共をおさらいする

庄司 英尚
2024.10.07

独自で退職金制度を備えるのが難しい中小企業のための制度
 厚生労働省所管の独立行政法人勤労者退職金共済機構は、毎年10月を中小企業退職金共済制度(以下、中退共)の「加入促進強化月間」とし、この制度への加入促進や広報活動などを行っている。

 中退共は、独自で制度準備が困難な中小企業を対象にした国による退職金制度で、中小企業事業主の掛金拠出と国の援助で成り立っている。今回は中退共の概要と基本的なポイントについてまとめておくこととする。
掛金の一部は国が助成、掛金は損金計上でき、管理も比較的簡単
 中退共は、中小企業退職金共済法に基づく外部積立型の退職金制度である。一般の中小企業を対象とした中退共とは別に、建設業・清酒製造業・林業で働く期間雇用従業者を対象とした特定業種退職金共済制度もある。これは中退共のように会社を退職するときに支払われるのではなく、その業界で働くことをやめたときに支払われる退職金制度だ。

 中退共に加入できる企業要件は、常時雇用する従業員数(常用従業員数)または資本金の額・出資の総額(出資金)のいずれかが下表の範囲内であれば加入可能である。
表 加入できる企業(共済契約者)
 従業員は原則全員加入となるが、短時間労働者や期間を定めて雇用される者等については加入させなくてもよい。なお、事業主及び小規模企業共済制度の加入者及び法人企業の役員は原則加入できない。
 中退共は、掛金の一部は国の助成があり、管理も比較的簡単で、掛金は全額事業主負担で全額非課税(法人企業の場合は損金、個人企業の場合は必要経費)となる(※)などのメリットがある。
資本金または出資金が1億円を超える法人の法人事業税については、外形標準課税が適用される。
 加入の手続きは比較的簡単で、掛金納付は口座振替なので手間がかからず、従業員ごとの掛金の納付状況や退職金資産額は毎年、事業主に知らせてくれるきめ細やかなサービスは魅力的である。
退職金は中退共より直接、従業員に支払われる
 制度の仕組みは、事業主が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付する。従業員が退職したときは、その従業員に中退共から退職金が直接支払われる。

 掛金は、月額5,000円~30,000円の範囲で16通り。事業主はその中から、従業員ごとに金額を選択する。また週30時間未満の短時間労働者の場合は特例として2,000円、3,000円、4,000円からも選択可能だ。途中で掛金の増額はできるが、減額は一定の要件を満たす場合に限られている。

 また、転職先の会社にも中退共がある場合、従業員の転職時までに積み立てられた退職金を引き継ぐことが可能な通算制度もあるので、従業員にとってはこの点もメリットになる。

 採用に苦しんでいる中小企業においては退職金制度の有無が応募に影響があることもあるので、退職金制度を検討されている企業は、中退共をはじめとする中小企業が利用できる退職金制度のWebサイトなどをご覧になって具体的な掛金を設定し、シミュレーションをしてみるのもよいのではないだろうか。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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