「平均寿命」でも「平均余命」でもなく「生存確率」で

森 義博
2024.11.11

寿命の想定は欠かせない
 皆さんにお尋ねします。ご自身は何歳まで生きることを想定していますか。願望や予想ではなく“想定”です。

 私はこれに「想定寿命」という名前をつけました。そして、これをできるだけ客観的に把握して認識しておくことをお勧めしています。老後のライフプランを立てる際には、想定寿命を前提にする必要があると考えるからです。公的年金の繰上げ受給や繰下げ受給、確定拠出年金の受取り開始時期や受取り期間、個人年金の種類や終身年金の保証期間などを選択する際には、寿命の想定は欠かせませんし、数年前に大きな話題になった「老後必要資金2,000万円」も、老後の長さ次第で金額は大きく変わるはずです。

 そうは言っても、実際に何歳まで生きるのかは勿論わかりません。そのリスクヘッジのために生命保険があるわけですが、ある程度リスク(寿命のブレ)を小さくすることができれば、生命保険にもより効率的に加入することができるでしょう。
寿命は何を拠り所に想定する?
 2023年の日本人の平均寿命は男性が81.09年、女性は87.14年でした(厚生労働省「令和5年簡易生命表」)。平均寿命は古くから馴染みのあるわかりやすい概念ですし、男性の81歳、女性の87歳は若い世代から見たら十分長い寿命と思えるでしょう。ですが、簡易生命表に掲載された出生10万人あたりの年齢別生存数をみると、男性の81歳は60,025人、女性の87歳は62,767人。つまり、6割以上の人が平均寿命を上回って長生きします。生存数が約半分になる年齢、つまり寿命の中央値は男性が84歳、女性は90歳。平均値と中央値には約3年の開きがあるのです。

 ライフプランを考える際の人生の長さには、平均寿命ではなく現年齢の平均余命を用いるのが一般的だと思います。例えば、65歳を起点とした平均余命は男性が19.52年(年齢に換算すると84.52歳)、女性は24.38年(同89.38歳)です。平均寿命と比べると中央値との乖離は多少緩和されていますが、半数以上の人がそれを超えることに変わりはありません。平均余命をターゲットとした老後準備では、途中で資金不足に陥りかねないと思います。
「想定寿命」は生存確率で
 ダイヤ高齢社会研究財団が中高年を対象に実施したアンケート調査で自身の「想定寿命」を質問したところ、回答は男女とも“80歳”に集中しました。男性は平均寿命を意識した人が多いと推測されますが、女性は平均寿命にすら大きく不足しているのです。これでは十分な老後準備ができないのではないかと、私は心配しています。

 では「想定寿命」は何をもとに設定すればよいでしょうか。私は“生存確率”だと考えます。
 例えば65歳を起点に考える場合、簡易生命表の出生数10万人あたりの各歳の生存数の中から、65歳の生存数(男性89,524人、女性94,371人)を分母とし、66歳以降の各歳の生存数を分子にすれば、65歳を起点とした各歳の生存確率が求められます。

 ちなみに、65歳の人の約半数が生きる年齢は、男性が85歳、女性は90歳、1/3が生存する年齢は男性が89歳、女性は93歳。4人に1人が生存する年齢は、男性が91歳、女性はなんと95歳です。

 「平均」を用いてライフプランを考えるかぎり、90歳以上の年齢はなかなか視野に入りません。しかし、男性の91歳、女性の95歳も「生存確率1/4」と考えると、十分に現実的な年齢だと感じられるのではないでしょうか。
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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