熟年離婚は本当に増えているのか

森 義博
2024.12.02

出生数・出生率・婚姻数が最低の中で
 厚労省が今年6月に「令和5年人口動態統計月報年計」(以下、「人口動態統計」)を公表してから2カ月ほど経った頃、テレビがにわかに「熟年離婚」の増加に注目しだしました。複数の番組でこの問題が連続して取り上げられたのです。私のもとにも某民放の朝のワイド番組のスタッフから、「かつてダイヤ財団が発表した調査結果を、番組の熟年離婚のコーナーで使いたい」という電話が入りました。役職定年による収入減と、熟年離婚の関係を議論する企画です。

 この「人口動態統計」が公表された当初は、「出生数が過去最少」「合計特殊出生率が過去最低」「死亡数が過去最多」「婚姻数が戦後最少」という記録ラッシュが注目され、少子化や人口減少の加速が取りざたされていました。私の関心も、この範囲にとどまっていたのが正直なところです。

 一方、離婚件数は前年に比べて増えたのですが、人口減少にともなって2000年代前半から減少傾向にある中での一時的な増加です。ところが、総数だけではなく中身を見て、熟年離婚の増加に着目した方がいたようです。
離婚件数は減少傾向だが
 婚姻件数のピークは1972年の約110万組です。年間約270万人が誕生した団塊世代が当時の結婚適齢期を迎えたこの時期、年間約220万人が結婚し、年間約200万人の団塊ジュニアが生まれました。その後、団塊ジュニアが20代後半にさしかかる頃に婚姻件数がやや膨らむ時期がありますが、基本的には右肩下がりが続き、2023年には47.5万組まで減少しています。

 一方の離婚は、20世紀の後半は増加を続け、2002年に約29万組でピークを迎えました。その後は減少に転じ、2023年は約18万組。ピーク時の6割強です。

 婚姻件数(100)に対する離婚件数の割合をみると、1970年には9.3だったものが、80年に18.3、90年は21.8、2000年は33.1と上昇し、離婚件数がピークの2002年には38.3に達しました。翌年以降、離婚件数は減っていくのですが、この値はあまり変わらず36前後で推移します。そして、2023年は前年比3.2アップの38.7。2002年の値を初めて超えたのです。離婚率は高止まりということです。「3組に1組が離婚する時代」という話もよく聞かれます。
離婚件数に占める婚姻期間の長い夫婦の割合が増加
 1970年には婚姻から2年未満の離婚件数が離婚全体の26.8%を占めていました。5年未満まで含めると51.6%と半数を超えています。一方、結婚後15年以上の離婚は全体の11.4%にすぎませんでした。当時は団塊世代がいわゆる結婚適齢期を迎えた頃で、結婚したばかりの夫婦の数が多かった時代です。

 直近の2023年は、傾向が大きく異なります。結婚後20年以上経過した夫婦だけで21.7%を占めており、15年以上まで含めると全体の3分の1(32.2%)に達します。一方、結婚5年未満の占率は28.7%です。
熟年夫婦の離婚率の上昇
 熟年離婚が本当に増えたかどうかは、離婚する「率」を確認する必要があります。下表は配偶者のいる人を分母とした、1年間に離婚した人の割合の推移です。単位はパーミル(対1,000人)です。

 もともと若年層ほど離婚率が相対的に高く、全体の離婚率を引き上げていたのですが、近年30代前後の離婚率が下がっており、離婚率全体は若干低下傾向にあります。その中で50代以上の離婚率は、若年層に比べればまだまだ低いものの、2000年以降は上昇傾向が見られます。男女とも50代前半が特に顕著で、男性は1990年の1.74‰が2000年は4.00‰、2010年は4.89‰と大きく上昇(2020年は4.64‰)、女性は1990年の1.22‰が2000年は2.83‰、10年は3.18‰、20年も3.75‰に上昇しています。50代後半にも50代前半ほどではないものの上昇傾向が見られ、2020年の離婚率は男性が3.03‰、女性は2.05‰でした。

 毎年、配偶者のいる50代前半の男性の1,000人中4.6人、女性の同3.8人、50代後半は男性の1,000人中3人、女性の同2人が離婚しているということになります。熟年離婚の増加は“率”、言い換えれば“可能性”の面でもどうやら間違いなさそうです。
性・年齢(5歳階級)別離婚率(有配偶者に対する割合)
出所:
国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2024年版)をもとに作成
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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