就労者にとっての介護

森 義博
2025.12.01

570万人以上が公的介護保険を受給
 80代後半の男性の3割弱、女性は4割以上が公的介護保険を受給しているというデータを前回(No.4946)ご紹介しました。さらに年齢が上がり90代前半になると、この割合が男性は半数弱、女性は3人中2人に上昇します。また、要介護になる原因の中には、脳血管疾患(要介護1~5の主原因の19.0%)や骨折・転倒(同13.0%)のように、突然介護が必要になるケースも少なからずあり、高齢の親を持つ誰もが、いつ介護に向き合うことになっても不思議ではないことをお伝えしました。

 実際、どれくらいの人数が公的介護保険を受給しているのでしょうか。2025年4月時点で受給者数は573万人。そのうちの69%が女性で395万人、男性は178万人です。年齢層別にみると図表1のとおり。前回は80代以上になると女性の受給率が男性より高くなるという話をしましたが、この年代になるとそもそも女性の人口が多いので、受給者数は80代前半で女性が男性のほぼ2倍、80代後半以上では圧倒的な差になっています。そのため、介護施設の入居者も女性の割合が高く、少数派の男性がとてもモテているという話も聞かれます。

 ところで、図表1でグラフが男女とも最も高い80代後半が生まれたのは昭和10年代前半頃です。80代後半の男女計の人口は390万人ほど(2024年10月現在)。しかし、これより10歳ほど若い団塊世代を含む現在70代後半の人口は、なんとこの倍の780万人強。今はまだ受給者数がさほど多くない年齢ですが、要介護の割合が高くなる10年後には、80代後半の介護保険受給者数が図表1の倍ほどに膨らむことになりそうです。
図表1
公的介護保険受給者数(5歳年齢階級別)(2024年11月審査分)
出所)
厚生労働省「令和6年度介護給付費等実態統計の概況」をもとに作成
増えるワーキングケアラー、減らない介護離職
 介護が必要になる割合が高まる80代以上の高齢者の子どもにあたる世代は50代以上が中心です。企業の中核層である50代はもとより、定年延長等により60代の就労機会の確保が進む中、就労と介護が時期的に重なるケースが増えることになります。

 総務省は「就業構造基本調査」でワーキングケアラー(介護をしながら就業している人)の数を集計しています。2022年調査時のワーキングケアラーの数は364.6万人で、10年前の2012年に比べ25%増加(図表2)。このワーキングケアラーの増加率は介護保険受給者数の増加率を上回っているのです。育児・介護休業法の改正、ワークライフバランスを推進する会社の方針や社内制度の整備、さらにそれらを通じた社員の意識の変化など、就労環境面で仕事と介護の両立がしやすくなったことが、ワーキングケアラーの増加を後押ししていると考えられます。

 しかし一方で、介護を原因とする離職が減少していないという現実もあります。「毎年10万人が介護離職している」という話をよく聞きますが、この数字が改善されていないのです。「就業構造基本調査」の「家族の介護・看護を理由とする離職者」は図表2のとおり、5年毎の直近3回の調査はいずれも約10万人です。ワーキングケアラーが増加する中での横ばいですので、離職率は漸減していると言えるものの、労働市場における大きな課題であることは間違いありません。
図表2
介護中の就労者数と介護離職者数の推移
出所)
総務省統計局「就業構造基本調査」(平成24(2012)年、平成29(2017)年、令和4(2022)年)をもとに作成
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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