業界の激動の始まりか?―金融審議会WG報告書―

加藤 悠
2025.01.20

 2024年12月25日、金融庁の金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書が公表されました。
「損保業界だけのハナシ」ではないのかも?
 このワーキング・グループ(以下「WG」)が開催された背景には、損保業界における以下のような問題が発覚したことにあります。
・保険金不正請求事案
 損保会社から自動車事故の際に紹介される(これを「入庫誘導」といいます)自動車修理工場を兼営している代理店が、車両を故意に損傷させるなどして、自動車保険の修理費を不正請求していた
・保険料調整行為事案
 数社で共同引受する企業向け保険において、損保会社間で事前に保険料の調整を行っていた
・過度な便宜供与
 保険代理店内の販売シェアを獲得するために、損保会社が代理店や保険契約者のグループ企業等に対し、「本業支援」などの名目で過度な便宜を提供していた
 これらの問題から、「顧客本位の業務運営」が十分に行われていないとして、是正の必要性が指摘され、WGが設置されました。

 「損保業界だけのハナシでしょ?生保は関係ないよね?」と思う方もいるかもしれませんが、実はそうとも限りません。特に乗合代理店で活動している方にとっては、大きな影響を与えるテーマが議論されました。
「乗合代理店」にとって大きな変化が求められる?
 それは、「比較推奨」についてです。

 「比較推奨」に関する具体的な方法は、保険業法施行規則(第227条の2第3項4号)で以下の3つのパターンが定義されています。
イ:
取扱商品を比較して説明する
ロ:
推奨販売(お客さまの意向に沿って商品を選んで推奨する)
ハ:
推奨販売(代理店独自の推奨理由・基準で商品を選んで推奨する)
 このうち「ハ」の方式(以下「ハ方式」)が、議論の対象となりました。
なぜ「ハ方式」が問題になったのか?
 いわゆる「保険金不正請求事案」では、損保会社が問題のある代理店に対して便宜供与(兼営する自動車修理工場への「入庫誘導」など)を行い、その代理店は見返りとして、特定の保険会社の商品を優先的に「ハ方式」でお客さまに推奨する事例がありました。このような行為は、「お客さまの適切な商品選択が阻害される」として問題視されました。

 さらに、現行の保険業法では「お客さまに対して推奨理由を適切に説明している」場合、コンプライアンス違反ではありません。しかし、昨年11月に施行された改正「金融サービス提供法」により、「お客さまの最善の利益」を考慮することが求められるようになったことも議論を後押ししました。

 要するに、便宜供与の実績などを踏まえた結果、代理店の利益を優先して特定の保険会社の商品を選定し推奨するのは、お客さまの最善の利益を考えていないのでは?ということで、「ハ方式」は問題アリ、とされたわけです。

 WG報告書では、
適切な比較推奨販売を確保する観点から、乗合代理店が比較推奨販売を行う場合には、乗合代理店における保険募集の実務や募集形態等も踏まえつつ、
顧客の意向に沿って保険商品を絞り込む
同保険商品の絞り込みに当たっては、顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し、推奨すること
を求めていくべきであり、その際の留意事項等については、今後、監督指針等において可能な限り明確化が図られる必要がある。
と記載されています。
今後の影響・展望は?
 乗合代理店は生損保兼営の形態をとることが多いため、「ハ方式」の比較推奨については、生損保双方に規制される(待ったがかかる)可能性が極めて高いと考えられます。

 今後は、金融庁は改正法案を国会に提出する予定です。ですから、法令や監督指針の改正情報に注目し、業務運営の見直しを検討していく必要があります。
参考:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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