雇用保険制度の改正 高年齢雇用継続給付の引下げ

西海 重尚
2025.01.20

2025年4月に多くの改正が施行される雇用保険制度
 雇用保険制度とは、労働者への就業支援、教育訓練等の必要な給付を行い、労働者の生活の安定を図る、社会保障制度のひとつである。
 2025年4月に改正施行される雇用保険制度として「自己都合退職の給付制限期間の見直し」「高年齢雇用継続給付の引下げ」「出生後休業支援給付の創設」「育児時短就業給付の創設」がある。

 深刻な社会問題となっている少子化対策として、「出生後休業支援給付の創設」「育児時短就業給付の創設」は歓迎すべきことである。

 また現行では、自己都合退職による失業給付(基本手当)を受けるには、7日間の待期期間後に給付制限期間が2ヵ月あるが、これが1ヵ月に短縮される「自己都合退職の給付制限期間の見直し」も、求職活動による再就職までの期間を短縮化するうえでプラスとなる。

 一方でシニア向けでは、「高年齢雇用継続給付の引下げ」がある。
高年齢雇用継続給付とは
 高年齢雇用継続給付とは、高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的とし、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者に給付金を支給する制度である。
2025年4月1日からの改定内容
 改定内容を一言でいえば、高年齢雇用継続給付の支給率が変更となる、ということである。現行の高年齢雇用継続給付の支給額は、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は、各月の賃金の15%相当額、60歳時点の賃金の61%超75%未満に低下した場合は、その低下率に応じて、各月の賃金の15%相当額未満の額となる。(各月の賃金が376,750円を超える場合は支給されない。この額は毎年8月1日に変更される。)

 例えば、60歳時点の賃金が月額30万円であった場合、60歳以後の各月の賃金が18万円に低下したときには、60%に低下したことになるので、1ヵ月あたりの賃金18万円の15%に相当する2万7千円が支給される。

 これが改定され、2025年4月1日以降に60歳に達した日を迎えた人については、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の64%以下に低下した場合の支給額は、各月の賃金の10%相当額となり、60歳時点の賃金が64%超75%未満に低下した場合の支給額は、その低下率に応じて、各月の賃金の10%相当額未満の額となる。

 具体的には厚生労働省のリーフレットを確認していただきたい。

〈厚生労働省〉令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します
高年齢雇用継続給付を受けている人は必ず改定内容の確認を
 高年齢雇用継続給付は、高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的としており、公的年金の受給開始が原則65歳からとなったことを補完するうえで大きな役割があった。

 給付率を15%から10%に引き下げる理由として、厚生労働省は「高年齢者の雇用を確保する措置の進展等を踏まえたもの」としている。

 65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置を講ずることを企業の努力義務にすることなどにより、70歳までの就業が支援されるようになり、シニアの働く環境は整備されてきた。

 しかし、定年退職を迎えた人の多くが選択する再雇用においては、賃金は確実に下落しており、高年齢雇用継続給付に頼っていた人も少なくない。

 2025年4月から施行される「高年齢雇用継続給付の引下げ」は、給付を受けていた人にとっては日常生活に影響を与えることになるため、見落としてはならない注意点である。
西海 重尚(にしうみ・しげひさ)
西海FP事務所 代表
CFP®認定者、1級 ファイナンシャル・プランニング技能士、J-FLEC認定アドバイザ―、公的保険アドバイザー、終活アドバイザーなどの資格を保有。

慶應義塾大学 経済学部卒。
33年間のサラリーマン生活において大手損害保険会社、生命保険会社、日本FP協会認定教育機関に勤務。
現在は独立系FPとなり、保険・年金・相続に強いアドバイザーとして活動中。

自己紹介用ホームページ https://fuku29390fpo.com

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