賃金のデジタル払い、指定資金移動業者は4社に

庄司 英尚
2025.04.21

厚労省、賃金のデジタル払いについて周知活動
 賃金の支払方法については、通貨のほかに、労働者の同意を得た場合には銀行その他の金融機関の預貯金口座への振込み等も行われている。一方で、近年はキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進み、一定の要件を満たすものとして、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)が可能となった。

 厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は、今年4月4日の時点で、PayPay株式会社、株式会社リクルートMUFGビジネス、楽天Edy株式会社、auペイメント株式会社の4社から選択できるようになり、デジタル払いが普及する環境は整いつつあるといえるだろう。

 例えばPayPay株式会社の「PayPay給与受取」の場合、2024年9月分の給与からソフトバンクグループ10社において開始、同年11月には同グループ17社が追加され、合計27社のグループ会社従業員のうち希望者は、PayPayアカウントで給与を受け取れるようになった。また、同年11月からソフトバンクグループ各社以外のPayPayユーザーを対象に、「PayPay給与受取」を提供している。

 厚生労働省においても周知活動にかなり力を入れている様子が窺えるが、使用者側も従業員側も内容をよく理解できておらず、誤解しがちなところもあるので注意事項も含めてまとめておく。
労働者にデジタル払いの利用を強制しているわけではない
 まず注意点としてあげたいのが、賃金のデジタル払いは、賃金の支払い・受取方法の選択肢の1つに過ぎず、賃金のデジタル払いを導入した事業所においても、全ての労働者が現在の賃金の支払い・受取方法からデジタル払いへ変更せよと強制しているわけではないということ。労働者が希望しない場合は、これまで通り口座への振込みなどで賃金を受け取ることができ、使用者は希望しない労働者に賃金のデジタル払いを強制してはならないことになっている。

 労働者本人の同意がない場合や賃金のデジタル払いを強制した場合には、使用者は労働基準法違反となり、罰則の対象になり得るところは押さえておきたい。もちろん賃金の一部を資金移動業者の口座で受け取り、その他は銀行口座などで受け取ることも可能であるのでそこは安心してほしい。
労使協定の締結と個別同意が必要
 事業場の使用者は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者4社のうちどの業者のサービスを導入するのか、労働者のニーズを踏まえながら検討することになる。複数の業者を選定することも可能となっているのは良いところである。賃金のデジタル払いを導入するには、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、労使協定を締結する必要があるので、まずはこの労使協定の締結が大前提となり、1つのハードルとなる。

 その後は労働者への説明会などの開催を経て、労働者の個別同意が必要となるので導入する事業主にとっても最初の導入時にはかなり負担があると思ったほうがいいだろう。個別同意があったとしてもその後の事務処理なども手間がかかるし、社内では就業規則や諸規程の改定などが必要なこともあるので留意しておきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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