将来か今か、心か物か

森 義博
2025.05.12

将来への備えか、今の生活の充実か
 「あなたは、今後の生活において、貯蓄や投資など将来に備えることに力を入れたいと思いますか。それとも毎日の生活を充実させて楽しむことに力を入れたいと思いますか。」

 内閣府が毎年実施している「国民生活に関する世論調査」にはこのような質問があります。選択肢は次の4段階です。
貯蓄や投資など将来に備える
どちらかといえば貯蓄や投資など将来に備える
どちらかといえば毎日の生活を充実させて楽しむ
毎日の生活を充実させて楽しむ
 皆さんはどれを選ばれますか。①と④はやや極端な印象がありますので、②か③の方が多いかもしれません。令和6年の調査結果をみると、案の定②と③で7割を占めていました。

 ところが、報告書に記載されていたこの質問の集計結果を見て驚きました。①と②の合計が43.5%、③と④の合計が55.7%と、“楽しむ”派が過半数を占めていたのです。私が思っていた日本人の国民性とは異なる結果に疑問を感じたのですが、年齢層別のデータを確認して、なるほどと思いました。回答者数が多い60代以上は“楽しむ”派が圧倒的多数で、それに全体の数字が引っ張られていたのです。

 “備える”タイプの金融・保険商品のターゲットになる年齢層はどうやら“備える”派が多数を占めているようで安心しましたが、日本全体でみれば、人口の多い高齢者層によって“楽しむ”派が過半数というわけです。

 団塊の世代が後期高齢者になった現在、高齢者の意向や趣向が全体の数字に大きく影響するケースはこれに限らないでしょう。データを見る際には読み違わないよう注意したいところです。
図1
あなたは、今後の生活において、貯蓄や投資など将来に備えることに力を入れたいと思いますか。それとも毎日の生活を充実させて楽しむことに力を入れたいと思いますか。
出所)
内閣府「国民生活に関する世論調査」(令和6年8月調査)をもとに作成
心の豊かさか、物質的な豊かさか
 同じ調査の質問をもう一つご紹介しましょう。

 「あなたは、今後の生活において、心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きを置きたいと思いますか。それとも物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたいと思いますか。」こうした意識を問う質問は、選択肢の書きぶりも重要ですね。少し長くなりますが、記しておきます。
物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きを置きたい
どちらかといえば物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きを置きたい
どちらかといえばまだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい
まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい
 1つの選択肢の中に「物質的にある程度豊かになった」と「心の豊かさやゆとりのある生活」のように2つの要素が入っているのは気になります。物質的に豊かではなくても心の豊かさを重視する人は選ぶものが無くなってしまいますので。また、「まだまだ」といった修飾語は、重視するものが物から心に移行することを前提とした表現に思われます。

 文句はこのくらいにしておきましょう。調査結果から、現役世代は“まだまだ”「物質面の豊かさ」を求めていることがわかりました。高齢層を含めた回答者全体では「心の豊かさ」が多数派でしたが‥‥。
図2
あなたは、今後の生活において、心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きを置きたいと思いますか。それとも物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたいと思いますか。
出所)
図1と同じ
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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