寿命はこれからも延びるのか? ― 2024年簡易生命表から(1)

森 義博
2025.09.01

 厚生労働省は7月25日、『令和6(2024)年簡易生命表の概況』を公表しました。翌朝の各紙で日本人の平均寿命とその国際比較、寿命に影響した死因などが報道されましたが、平均寿命が前年からほぼ横ばいだったためか、取扱いは例年に比べて小さめだったようです。
日本人女性の平均寿命は40年連続世界一
 2024年の国内在住の日本人の平均寿命は男性が81.09年、女性は87.13年でした。
 平均寿命の作成方法は国により異なるので厳密な比較は困難との注記付きですが、厚労省が入手したデータの範囲では、女性は世界でトップ、男性は6位とのこと。女性は1984年に世界一になって以来、40年にわたりトップを守り続けています。

 女性の2位は韓国で、日本との差は0.73年。その後はスペイン、スイス、フランス、イタリア、スウェーデンと7位まで欧州各国が続きます。一方、男性はスウェーデンが82.29年で首位。次いでスイス、ノルウェー、イタリア、スペインと、日本より上位の国は全て欧州でした。ちなみに、米国は男性が75.8年、女性は81.1年で、男女ともG7の中では最短です。また、ロシアの平均寿命が短い(男性68.04年、女性78.74年)ことはよく知られています。
平均寿命はコロナ禍以降延びていない
 報道では2024年の平均寿命は“横這い”という表現が多かったようですが、厳密に言うと前年に比べ男性は△0.00年、女性は△0.01年と、男女ともごく僅かに短縮しています。

 戦後の平均寿命は、インフルエンザの大流行や大地震のあった年に一時的に縮むことはあったものの、他の年はそれを上回るペースで延び、その結果70年以上右肩上がりの傾向が続いてきました。ところが、男女とも2020年(男性81.56年、女性87.71年)がピークで、その後は2023年に僅かに延びた以外は対前年マイナスです。その結果、2024年はピーク時に比べ、男性は0.47年、女性は0.58年短くなっています。

 「簡易生命表の概況」には「平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数」というデータが掲載されています。それによると、「新型コロナウィルス感染症」は2020年から22年までは平均寿命を前年より縮める“マイナス寄与”でしたが、23年には“プラス寄与”に転じ、それが同年の平均寿命の延伸につながりました。しかし、延伸は続かず、24年は新型コロナが引き続き“プラス寄与”にもかかわらず、老衰や肺炎といった別の死因の“マイナス寄与”が勝って平均寿命は縮んでしまったのです。
少し気になる平均寿命の動向
 「簡易生命表」には年齢別死亡率や出生10万人あたりの年齢別生存数が掲載されています。2024年と平均寿命が最長だった2020年のそれらを比べてみると、少し気になる点があります。詳細は割愛しますが、2020年よりも2024年のほうが若い年齢層で死亡率の高い年齢が多く、その結果2024年の生存数が2020年を下回る年齢が目立つのです。関心のある方は、「第23回生命表(完全生命表)」と「令和6(2024)年簡易生命表」の各年齢の「生存数」を見比べてみてください。

 国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の将来推計人口(令和5年推計)』は、日本人の平均寿命は今後も延び、死亡中位の仮定で2050年には男性が84.45年、女性は90.50年になるとしています。ところが、実際の2024年の平均寿命は「死亡中位」の仮定値を既に下回り、「死亡高位」に近い数値となっています。まだ数年は推移を見守る必要があるとは思いますが、今後の平均寿命の動きは、従来の延長線上とは少し異なってくるかもしれません。

 次回は、今回の簡易生命表を踏まえ、ライフプランを立てる上での留意点などについて考えたいと思います。
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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