監督指針改正に何を思う-規制にまつわる温故知新-
2025.09.29
2025年8月末の金融庁からのメッセージ
2025年8月28日、金融庁は同年5月12日に公表した「『保険会社向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)」(改正監督指針)について、パブリックコメントの結果を公表するとともに、改正後の監督指針を同日からただちに適用しました。
さらに、翌29日には「2025事務年度金融行政方針」が示され、「保険業界の信頼の回復と健全な発展に向けた対応」が明記されました。つまり、これらの指針・方針への対応が否応なく求められることとなったのです。
さらに、翌29日には「2025事務年度金融行政方針」が示され、「保険業界の信頼の回復と健全な発展に向けた対応」が明記されました。つまり、これらの指針・方針への対応が否応なく求められることとなったのです。
規制強化と映るが・・・
今回の監督指針は、一見、規制強化と映るかもしれません。しかし、「金融行政方針」にあるように、「顧客本位の業務運営の徹底と健全な競争環境を実現する」ための規制を再定義するものと考えるべきでしょう。
ここで筆者が思い起こしたのは、金融庁が「プリンシプル・ベース」という言葉を使い出した当時の佐藤隆文長官が語った「ベター・レギュレーション(Better Regulation)」という概念です。
ここで筆者が思い起こしたのは、金融庁が「プリンシプル・ベース」という言葉を使い出した当時の佐藤隆文長官が語った「ベター・レギュレーション(Better Regulation)」という概念です。
「より良い規制」とは?
ベター・レギュレーションの直訳は「より良い規制」です。ただし、それは「規制の厳格化」でも「緩和」でもなく、規制の「質」を高めることを意味します。
すなわち、金融行政の3つの不変の目的(「金融システムの安定あるいは信用秩序の維持」、「利用者保護・利用者利便の向上」、「市場の透明性・公正性の確保」)の実現のために、規制の「質」をどう高めるか。その答えを模索する姿勢こそが「ベター・レギュレーション」です。2007年(平成19年)に語られた内容ながら、現在でも通用する考え方ではないでしょうか。
すなわち、金融行政の3つの不変の目的(「金融システムの安定あるいは信用秩序の維持」、「利用者保護・利用者利便の向上」、「市場の透明性・公正性の確保」)の実現のために、規制の「質」をどう高めるか。その答えを模索する姿勢こそが「ベター・レギュレーション」です。2007年(平成19年)に語られた内容ながら、現在でも通用する考え方ではないでしょうか。
ベター・レギュレーションの柱
談話の中で、佐藤長官は「ベター・レギュレーション」を以下の4つの柱で整理しています。
・
ルールとプリンシプルの最適な組み合わせ(ルールでがんじがらめにせず、原理原則を共有して補完)
・
優先課題の早期認識と効果的対応(リスク・フォーカス、フォワードルッキングな監督)
・
金融機関の自助努力を促す(自主的な改善やベスト・プラクティスを共有、創意工夫を後押しする仕組み)
・
行政対応の透明性、予測可能性の向上(恣意的にならず、先が見通せる監督)
規制は縛るためではなく、信頼を生み持続的に成長するためのもの
こうして振り返ると、20年近く前に語られてきたことがいまだ十分に進んでおらず、「ルールで縛りつける監督指針改正」と映るかもしれません。個人的には、その背景には業界のプレイヤーだけではなく監督当局にも少なからず課題があったと考えています。
本来、ルールは過当競争や便宜供与を抑えるためのものであり、プリンシプルは自助努力と顧客本位の姿勢を後押しするものです。そして、その両輪をどのように生かして実効性を高めるかについては、保険会社や代理店などの現場に委ねられています。
佐藤長官がかつて語った「ベスト・プラクティスを競い合う」姿勢――それこそが、業界の信頼回復への最短距離なのかもしれません。
本来、ルールは過当競争や便宜供与を抑えるためのものであり、プリンシプルは自助努力と顧客本位の姿勢を後押しするものです。そして、その両輪をどのように生かして実効性を高めるかについては、保険会社や代理店などの現場に委ねられています。
佐藤長官がかつて語った「ベスト・プラクティスを競い合う」姿勢――それこそが、業界の信頼回復への最短距離なのかもしれません。