年金制度改正を踏まえた公的年金の活用法

岡﨑 一恵
2025.10.16

 2025年6月13日に年金制度改正案(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が成立し、6月20日に公布されました。改正の趣旨を読み解くとともに、今後、公的年金をどのように活用すべきか考えていきたいと思います。
制度改正の趣旨は、男女差の解消や多様化への対応
 改正の趣旨について、厚生労働省のホームページでは「働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再分配機能の強化や私的年金制度の拡充等により高齢期における生活の安定を図るため」と説明されています。

 ここには、「女性の就業率上昇等の社会変化に合わせた男女差の解消」「高齢者の活躍の後押し」「ライフスタイルの多様化」「働き方に関係なく形成できる老後資産」といった制度設計の方向性が示されています。こうした趣旨に基づき、以下の改正やiDeCoの加入可能年齢の引上げなどが講じられました。
改正内容は大きく5つ
 具体的な改正内容は以下の通りです。
①社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象の拡大
 短時間労働者の加入要件が見直され、賃金要件(年収106万の壁)や企業規模要件が撤廃されます。
②在職老齢年金制度の見直し
 在職老齢年金の支給停止調整額が月額50万円から62万円に引き上げられます(2024年度価格)。年金を受給しながら働く高齢者の年金が減額されにくくなるため、働き控えの緩和による人手不足の解消が期待されます。
③遺族年金制度の見直し
 子(18歳未満)がいない60歳未満の配偶者は、男女とも原則5年の有期給付の対象となります。これにより、60歳未満の男性が新たに支給対象となります。なお、これまで30歳以上の女性は無期給付の対象でしたが、2028年度以降に40歳になる女性は有期給付となるため、改正前と比べて遺族厚生年金が減額されます。ただし、配慮が必要な場合は5年目以降も給付は継続されます。
 子に対する遺族基礎年金の支給要件も緩和され、子の意思によらない事情で支給が停止されることがなくなります(子の生計を維持する配偶者が死別後に再婚したり、年収が850万円を超えたりしているケースなど)。
④厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
 厚生年金等の保険料や年金額の計算に使用する賃金の上限が月額65万円から段階的に75万円に引き上げられます。賃金に応じた保険料を負担することで、将来は現役時代の賃金に見合った年金を受け取れるようになります。
⑤将来の基礎年金の給付水準の底上げ
 今後、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドによる調整を同時に終了させる措置を講じるというものです。こちらは別の機会にあらためて解説いたします。
改正で広がる年金の活用法
 では、公的年金をどのように活用すべきでしょうか。老後の生活をまかなうためのお金は三層構造になっています。土台となる部分が「公的年金」で、二番目の層が勤務先から支給される「退職金・企業年金」、三層目が自分で準備する貯蓄や投資等です。公的年金や退職金・企業年金だけでは足りない場合は、自分で備えを厚くする必要があります。しかし、どんなに長生きしても終身で受け取れる公的年金は「備えの根幹」といえます。
(筆者作成)
 今回の改正はこの根幹にかかわるものです。短時間労働者の加入要件が緩和されたことから、より多くの人が従来よりも強固な土台を築けるようになります。また、在職老齢年金の見直しにより、働きながら年金を受け取る高齢者の選択肢が広がります。iDeCoの加入可能年齢も引き上げられ、60代以降も自助努力による資産形成が可能です。

 繰り返しになりますが、こうした制度改正の趣旨は、「働き方やライフスタイルの多様化」に対応し、誰もが自分らしい老後をおくれるようにすることです。年金をただ受け取るだけでなく、老後の人生設計の基盤として、どのように活かすかが問われています。制度の変化を踏まえ、働き方や家族構成に応じた備え方を選ぶことで、安心した老後につなげることができます。
参考:
岡﨑 一恵(おかざき・かずえ)
社会保険労務士岡崎一恵事務所 代表
社会保険労務士
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®認定者

滋賀県大津市出身。同志社大学卒業後、地方銀行の人事部に勤務。
子育てのブランク9年と、紆余曲折の後、社会保険労務士として2018年開業。
2021年CFP®認定者として登録、2023年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2024年日本FP協会FP広報センタースタッフを務める。
NPO法人障害年金支援ネットワークに所属。
地元横須賀の中小企業の労務管理と、障害年金代理請求業務、障害年金を受給されるご家庭のライフプラン相談に取り組む。

公式サイト https://www.okazakikazue.net/

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